140.作戦会議は夜会の片隅で(2)
「シン、絶対に外へ出せない話をするけど秘密守れる?」
「……お兄ちゃんと呼びなさい」
ここで羞恥プレイを要求するとは、ヤンデレ兄は厄介だ。仕方ないので溜め息をひとつ。わざとらしく吐いてから言い直した。
「お兄ちゃん、絶対の秘密があるんだけど……」
「お兄ちゃんに話してごらん、秘密は守る」
「「「…………」」」
視線で尋ねるレイル以外の面々に、いちいち頷いてやった。あとで説明してやる。くそ、何かするたびにあちこちへ説明義務が付属するのって、カミサマの呪いか? 異世界人の宿命だったら嫌だ。
「ブレねぇなぁ、シン」
呟いたレイルが煙草を咥えるが、さすがに火をつけることはしなかった。咥えたまま様子を見ている。足元のヒジリを撫でて、いつの間にか長椅子の余りに座ってるブラウに苦笑いした。猫ってよく隙間見つけて割り込むよな~。
「リアム……皇帝陛下は実は女性なんだ」
「キヨ、幻覚や幻想は」
「本当です」
オレの告白に哀れみの目を向けるシンの気の毒そうな口調、彼に事実だと突きつける容赦のないシフェル。驚きすぎて絶句したシンは、オレを指さし、その後リアムも指さした。ぱくぱくと動く口は声を発っしない。あまりのパニック振りに「失礼だぞ」と注意する気もなく、彼が落ち着くのを全員で待った。
『主殿、時間があるなら傷を治すぞ?』
「あ、うん。頼む」
思ったよりシンの混乱が長引いたため、空気を読んでじっとしていたヒジリがのそりと起き上がった。……ん? ちょっと待て? この場で治す……ということは。
ヒジリが鼻を服の中に突っ込んだ。前に垂れてる布を押しのけ、下の着物を二つに割って足に湿った息がかかる。怖い、痴漢される女の子の気分がわかってしまった。相手がヒジリだと理解しててもこれだけ怖いんだから、知らないおっさんの手だったら声が喉に貼りつくのわかる。
「ヒジ、リ」
『大人しくしておれ』
何この傲慢さ。痴漢のくせに! 意味の分からない罵りをそのまま声にする前に、丁寧に血を舐め取られた。ふわっと痛みが消える。ほっとして力を抜くと、すぐにヒジリが出てきた。にやにやするブラウの鼻先を容赦なく叩く。
『主、ひどい』
「お前の顔の方が酷い」
ぴしゃりと切って、膝に手を置いてのそりと身を起こす黒豹に向き直る。やるしかないのか? ヤンデレ兄と恋人の前で……あのベロチューを……。
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