326.拷問や処刑方法が中世?(2)

 処刑はさくさく進み、夕暮れに赤く染められた……いや、元から真っ赤な処刑場を眺める。ここ、明日は鍛錬で使うんだよな? 掃除は誰がやるんだろう。処刑人や下働き? でも誰かの股間のイチモツの肉を片付けるのって、残骸でも嫌じゃね?


「終わったぞ。これで全員処理した」


 ハオ陛下、お義父様よ。そこはもう少し包んで「全員処刑した」というべきだろう。ようやっと処理が終わった的な発言は……おっと国民の受けは上々だった。歓声が上がる中、手を振りながら退場である。


 王宮に続く廊下の入り口で立ち止まり、ぱちんと指を鳴らす。浄化をイメージ、アンデッドを消したゲームの映像を思い浮かべた。ごそっと持っていかれた魔力だが、ふらつく程じゃない。完全に消し去った。


 赤い血、散らかった臓物や肉片。すべてが消えて、綺麗に元通りの鍛錬場だ。驚いた顔をする家族を促しながら、足を踏み出す。


「終わった終わった、さて……夕食は何かな?」


「血の滴るステーキにしてもらったらどうだ?」


 笑うレイルの茶化しに「レイルも食べるんだぞ」と返したら、嫌そうな顔をされた。げらげら笑いながら、シンやヴィオラと手を繋ぐ。寂しそうなハオは、食事中に膝に乗ることで納得してもらった。


 日本で、別に家族に蔑ろにされて育った経緯はない。オレが引きこもるまで、ごく普通の中流家庭だった。家族の平穏な日常を崩したのはオレで、きっと死んだ後も迷惑を掛けただろう。悪い事をした……素直にそう思った。もう声は届かないけど、ごめんなさい。


 顔を上げると、オレに甘い家族や従兄弟がいる。義理だけど、それ以上の愛情を貰っていた。今度はきちんと愛情を返せるようになりたい。


 ヒジリが頬擦りしながら、足の間に首を突っ込もうとする。素直に足の間に首を入れたら、強引に首で持ち上げて背中に乗せられた。なんだ? ヤキモチかよ。大人しく揺られるオレの背にスノーが飛びつき、肩によじ登る。抱っこしろとせがむマロンを前に座らせ、両手は再びシンとヴィオラに握られた。


 ゆらゆらと心地よい黒豹の背中に跨がり、一仕事終えた今日の終わりを思う。朝から騒がしくて、裁判はそれなりにこなし、処刑で午後が潰れた。おやつのプディングは美味しかったけど、いつか杏仁豆腐もどきが食べたい。作り方を知ってる日本人がいないか、確認しなくちゃな。


 幸せを噛み締めるオレを往復ビンタするように、不幸は突然訪れる。


「大変だ! キヨ、皇帝陛下が襲われた」


 ピアスに入った連絡に青ざめるレイルの言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になる。早く駆けつけなくちゃ、それだけが駆け巡り、転移を使った。魔法陣なんてどうでもいい。座標はリアのすぐ近く、どこでもいいから誰かにぶつからない場所。


 ぱっと消えたオレは、手に触れていたシンとヴィオラも連れていた。宮廷の廊下だ。見慣れた扉はリアの私室だった。護衛の騎士が剣の柄を握るも、オレの顔を見て息を飲んだ。手を離してぎこちなく一礼する。


「リアは? この中? そうだよね」


 捲し立てるオレに何か言おうとした騎士を無視して、扉に手を当てた。中から鍵? 


「キヨ、落ち着け」


「そうよ、婚約者であっても勝手に部屋に入るなんていけないわ」


 シンとヴィオラの声は遠く、水の中で外の音を聞くような感覚だった。血が沸き立つような興奮状態で触れた扉は、オレをすんなり通してくれる。するりと扉を抜けた。


『主人?! 嘘、どうやって』


 騒ぐコウコが足に絡みつくが、無視して先を急いだ。ベッドの脇には見慣れた侍女と、診察中の医師らしき女性。そして……横たわるリアの顔を見た瞬間、オレは膝から崩れ落ちた。

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