224.国の消滅、危機一髪?!(2)

 追いついたジャックが苦笑いして、しゃがむ。視線を合わせながら、ノアがタオルを差し出した。


「ありがと」


 濡れタオルで吐いて汚れた顔や手を拭く。右側にある吐瀉物を、ヒジリが埋めていた。魔法って便利。手を触れずに清潔処理だ。


「そっちは寒いだろ」


 ジャックは故郷の寒さを指先で確かめるが、国境の手前で足を止めた。


「うん」


 この数歩の差で気温や天気が変わるの、本当に不思議だ。でもこの違いで、文化や作物が変化して多様性が保たれてる。そう考えると悪くない。オレが求める調味料様も、この寒さが必要かもしれないし。


『主様、契約どうします?』


 そこで思い出した。いけね! スノーかマロンに命令して、王族の契約を保留にできるか試そうとしてたんだ。


「命令してみるから、聞いてて」


『『はい』』


 マロンとスノーがハモった。走るのが苦手なチビドラゴンとミニ龍を抱っこしたマロンは、小型版のオレだ。つまりコウコやスノーを連れたオレは、外からこう見えるのか。


 客観的にみると、蛇を巻いた奴ってイタイな。龍だとカッコいいのに、蛇だと思うと複雑な心境になる。龍珠だっけ? あれを手に持たせてみるか。でもあれがこっちの世界で龍の持ち物と認識されてなければ、ただのボール持った蛇……あ、詰んだかも。


 余計なことを考えて落ち込みながら、ひとまず命令してみることにした。


「スノー、マロン。東と南の国を維持して。契約者は自分で決めていいけど、オレが生きてる間は国を維持。できる?」


 きっちり言い聞かせてから、最後に尋ねる。唸っていたスノーはぽんと手を叩いた。


『出来たっぽいです』


『こちらはちょっと、難しいです』


 マロンが唸る。その違いは性格とかじゃないよな。聖獣に順位や大きな力の差はないと習ったけど……じっと2匹を見比べてからオレは気づいた。


 聖獣の主人のいる場所が影響してるんじゃないか? 東の国にオレがいるから、スノーに命令が浸透しやすい。だとしたら……。


 のそのそと南の国の国境線に向かう。明らかに生えている草が違うから、綺麗に線が出ていた。跨ごうとしたオレにストップの声がかかる。


「キヨ、さっきのおれの話を聞いていたのか?」


 鼻にシワを寄せて腕を組んだレイルに、実験だからと言い含めて国境を跨いだ。ほわんと暖かい。


「マロン、さっきの命令を繰り返すぞ」


 頷くマロンにしっかり言い聞かせて命じると、今度は成功した。ぱっとマロンの顔が明るくなる。


『出来ました! ご主人様』


「よくやった。マロンもスノーも偉いぞ」


『え……それでいいなら、あたくしも解約して来ようかしら』


 コウコが最初に文句を口にする。彼らだけ褒められたのが面白くないと、尻尾で地面をぺしぺし叩いた。

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