123.舌戦は低レベルなほどダメージ大(4)
いい加減、限界なのだ。この国の腐った特権階級は、崩壊寸前だった。あれだ、フランス革命前夜の退廃した雰囲気。日本史はあまり詳しくないが、世界史はまあまあ得意なんだよ。お陰で西洋っぽいこの国の感じもぼんやり掴める。
爵位は
力を持ちすぎる宰相には、公爵家は就けない決まりがあるらしい。過去の皇家の方々が決めた細かな決まりが、崩壊しかけたこの身分制度をぎりぎりでもたせていた。ウルスラが侯爵なのは、この決まりの所為だ。そうでなければ、シフェルの兄が宰相だっただろう。
裏を返すと、目の前のおっさんは侯爵(たぶん?)家に生まれただけの無能者だ。優秀なら宰相に上り詰めたはずだからな。貴族ってのは、よほどのポカやらかさないと降格はない。無能でも家格の維持は可能だった。
「……っ、貴様のようなガキが」
「うーん、ところでおっさん……いい加減名乗ったら? オレ、この宮殿来て日が浅いから……
そう言いながら、近くを通った年老いた執事さんに手を振る。彼も小さく振り返してくれた。この宮殿の執事や侍女は本当に礼儀正しくて、オレとしては変な貴族より好感度が高い。
「セバスさんと違って、おっさんは初対面じゃん」
にこにこしながら、煽る為に執事の名を出す。分かりやすく不機嫌になった男が口を開いた。
「なんだ、セバスというのは」
「え? 知らないの? ああ、そうか。皇帝陛下であるリアムの近くに寄れないんだもんね。ごめん、リアムと親しい人は全員知ってると思ってた。リアムの専属執事の名前」
「執事風情と我が名を同列にするか!?」
「いや、本当だよな。だってさ、あんたの名前を覚えてオレに利益ある? セバスさんはご飯やお茶の手配してくれるし、いつもリアムの隣にいるからオレにとって、優しいお爺ちゃんって感じだもん。あんたを覚えても役立たないし、無駄だよね」
同意するフリして、相手を徹底的にこき下ろす。悪いが半分以上は本音だ。隠す余地のない本音に、通りがかった男性が吹き出した。すぐに表情を取り繕うが、書類を大量に抱えた文官さんに見覚えがある。
「リサリスさん、書類大変だね。お疲れ様」
笑顔で見送ると、彼も作った笑みを崩して微笑んだ。手がふさがってるが、指先をちらちらと動かして挨拶してくれる。とばっちりを避けるため、彼は足早に離れていく。あとで焼き菓子を分けてやろう。ナイスタイミングで通り掛ったお礼だ。
豪華な宮殿の入り口付近は、様々な階級の人が通る。執事や侍女はもちろん、出仕した貴族や騎士も含めれば、そうとうな数の人間が行き来した。そんな衆目の中で、侯爵位(かな?)の貴族が、黒豹に乗った子供の安い挑発でやり込められてるのは、いい笑い物だ。
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