123.舌戦は低レベルなほどダメージ大(5)
「こっちへこい」
「え、やだ」
人目が多すぎることに気づいた男の誘導に、首を横に振った。大人しくしているヒジリがちらりと顔を見て、のったりと尻尾を振る。首の裏を撫でてやり、オレは男の次の一手を待った。さあ、餌をたくさん撒いたんだから、食いついてこい。
「オレはリアムに会いに来たんだぞ。邪魔する権限があるの? あんた、そんなに偉いわけ? それと、『知らない
ひらひら手を振って背を向ける。怒りが頂点に達して言葉も出ず、真っ赤な顔でぶるぶる震えるおっさんを置き去りに、ヒジリがすたすた歩きだした。ぐるぐる喉が鳴っているのは猫科がご機嫌な証拠。どうやら無礼なおっさんをやり込めたのが気に入ったらしい。
さすがはオレの聖獣様だ。
「待て! 貴様、このままで済むと思うなよ!!」
「あ、悪役の捨て台詞だ」
取り繕うことなく本音が漏れた。いやぁ、本当に使う奴がいるんだな。驚きすぎて、考えを纏める前に口から零れ出てしまったじゃないか。
「このくそがき……っ!!」
攻撃を仕掛ける男の手を、オレはそのまま見逃した。ここは一発だけ殴られて、加害者をぎゃふんと……そんなつもりでいたら、シフェルが邪魔をする。振り翳した拳を受け止めたシフェルが、淡々と話をぶった切った。
「その辺にしなさい、キヨ。陛下がお呼びです、遅れるわけにいきませんよ」
行儀悪いのを承知で舌打ちしてしまう。ヒジリに手出しを禁じておいたのに、こいつが手出しするとは。オレが危害を加えられても助けに入らないと思っていた。油断大敵って、この場面でも使えるんだろうか。
オレが身分差を利用して相手に手を出させる作戦だって、理解してるくせに邪魔するなんて。意外とあのおっさんは大物だったってこと? 今はまだ手を出すな、とか。
「わかった」
むすっとわかりやすく唇を尖らせて、不満を表明する。殴られたら伝家の宝刀を抜いてやろうと考えていたため、どうしても不満が顔に出た。さすがに名乗らないおっさんも諦めたらしく、いつの間にか消えている。
並んで歩きながら「邪魔するなら連絡しなきゃよかった」とぼやく。危害を加えられた明確な証拠を元に、やっつけるつもりで人通りが多い場所を選んだのに台無しだ。
ブロンズ色の髪をかき上げ、苦笑いしたシフェルが少し身を屈めた。足がつかないほど大きい黒豹の背に乗っても、オレが小さすぎるらしい。
「……この後、最高の舞台を陛下が用意してくれるそうですよ」
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