123.舌戦は低レベルなほどダメージ大(6)

「ん? リアムが?」


 用意してくれる……そこで気づいて笑ったオレの顔は、わかりやすく悪徳代官だったらしい。黒い悪だくみを匂わせる笑みに、シフェルが肩を竦めて姿勢を正した。


「そういうわけですから、してくださいね」


 先ほどの小声でのささやきが聞こえない周囲は、ヤンチャが過ぎたオレが叱られ中に見えただろう。しかしこの場で一番悪い企みを楽しんでいるのは、絶対にオレだ。


「うん。リアムのために我慢する」


 そうだよな、折角の舞台だ。用意してくれた恋人に、最高の演技を見せたいじゃないか。これはもっと作戦を練って、おっさんをやり込める語彙力を増強しておかなくては。昔から勉強嫌いだったので、国語は苦手だが、オレはやれば出来る子である。


 無理だと思った指揮官も、ドラゴン退治も、なんだかんだ片づけてきた。過去は自信を大きく育てて、肥大させている。それにふさわしい準備もした。


「それにしても……随分低レベルの言い争いでしたね」


 どこから聞いていたのか尋ねれば、最初からだと言う。途中で助けずに見てるあたり、いい根性してる奴だ。まあ、邪魔されずに煽れたので、リアムの用意した舞台で踊って派手に転んでもらおうか。足を縺れさせ踊れなくなる無様を見せつけ敵をけん制するのは、宮廷内で有効な手段だった。


 オレが読んだ「ざまぁ」系の知識を総動員してやる。当時は現実逃避で読んでいた本だが、何事も無駄な知識はない。


「オレは子供だからいいけど、今夜はあのおっさん寝られないだろうな……悔しくて。子供と同レベルの会話でやり込められたわけだし?」


 にやりと笑ってシフェルを見上げる。ご機嫌で尻尾を振るヒジリがようやく口を開いた。


『我は主殿が誇らしかったぞ。さすがは聖獣の主だけのことはある』


「ありがとう。そういう褒めて育てるヒジリの優しいとこ、大好き~」


 首に抱き着いて頬ずりしていると、上から呆れ声が降ってきた。


「確かに彼は眠れないでしょうね。こんな腹黒の子供に言い負かされるなど、屈辱ではらわたが煮えくり返る思いですよ」


 リアムの部屋に着くまでの廊下で教えてもらった知識は、おっさんの地位や派閥に関するものだった。意外と大きな派閥の2番手なのだという。元派閥の長がシフェルのお兄さんなので、現在は彼が事実上のトップだった。人前で恥をかかされて、我慢できるわけがない。


 侯爵家当主の面子はもちろん、派閥のトップとして傷つけられた誇りを取り戻そうと口撃こうげきしてくるはずだ。にこにこ笑いながら聞くオレに、シフェルは苦笑いして髪をくしゃりと撫でた。


「あまり無茶はしないでくださいね。庇いきれなくなります」


「うん、わかった」


 お返事だけは優等生で応じた。

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