163.荒技でも技は有効(2)

「私の署名が無効となりましたので、家督相続が終わっておらず、未だに『侯爵家当主』のままです」


 そう、かなりの荒技を繰り出した自覚はある。だが当事者がそうだと言い切り、皇帝陛下が「本当だ」と相槌を打ってしまえば、誰も否定できない事実となってしまう。この世界のいいところは絶対王政だ。最高権力者が決めれば、多少の無理も押し通せる。


 これは向こうが使った方法を逆手にとって、やり返した形だ。すでに手続きはほとんど終わり、代替え地ももらったくせに、オレが下賜された土地にちょっかいを出した。リアムに貰ったんだぞ? 彼女に恥をかかす気か?


 だからすでに家督継承が終わったはずのラスカートン家の相続が、まだ終わっていないと話をでっち上げた。書類はウルスラが持ってるし、閲覧許可は簡単に下りない。この状況でどんな嘘をついても、皇帝陛下であるリアムと署名をした当事者のベルナルドが味方なら、それは事実として肯定されるってわけ。卑怯だけど、相手の技をかけ返しただけだから。


「へぇ、いいこと聞いちゃった」


 後に悪魔の微笑みと揶揄される満面の笑みで、オレは「さっきまでラスカートン侯爵を名乗っていた、息子さん」に声をかけた。


「あんた、まだ当主じゃないんだって? 侯爵子息程度が、このオレに随分と失礼な口利いてくれたね」


 権力を振りかざすのは性に合わないが、貴族社会の戦いは地位と権力が最高の武器だ。戦場で複数の銃を使いこなすのと一緒。だから遠慮なく撃たせてもらうよ。


「ねえ、ベルナルド。さっきのお願いって何?」


「我が君はこの土地で孤児を養うと伺いました。素晴らしいお心にベルナルド、胸を打たれました。是非この土地を献上させていただきたく、お願い申し上げます。元より代替え地を得ておりますゆえ、皇帝陛下のご許可があれば今すぐにでも」


「さすがはベルナルドだ。ありがたく使わせてもらうね」


 にっこり笑って見せつけた。厳格でお前に厳しく恐るべき存在だった父親は、オレの配下でしかない。その下にいるお前は、到底オレには届かないのだと。


「ウルスラかシフェルに伝えてきて。話は済んだから、そこの……ベルナルドの息子は帰っていいよ」


 ひらひら手を振って「邪魔だ」と示す。ムッとしようが、足掻いても遅い。だって爵位は父親のベルナルドへ戻った。お前の爵位継承はまだ先だし、もしかしたら養子が継承するかもね。

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