350.ずっと一緒に生きていこう(最終話)

 この世界に落ちて、たった2年半――最初は見上げた玉座の前まで上り詰めた。


 貴族が序列順に並び、壁際に侍従や侍女が控える。前列に護衛の近衛騎士団が整列していた。もっとも近い位置には、各国の王族や高位貴族が招待されている。正装した人々が並び立つ2人に一礼した。


 無駄な音や動きのない光景は、いつもリアが背負ってきた重責を実感させた。こんなに重いものを、華奢で可愛いリアが支えていた。身の安全のために性別や名前さえ偽り、命を狙われながら国を守ってきたのだ。


 これからはオレも背負うし、リアはオレが守り抜く。覚悟を新たに、リアの言葉を待った。


「婚礼に集まってくれた人々に礼を言う。私、ロザリアーヌ・ジョエル・リセ・エミリアス・ラ・コンセールジェリンは、中央の国の皇帝として……隣に立つキヨヒト・リラエル・セイ・エミリアス・ラ・コンセールジェリンを夫とすることを宣言する。長き竜の命が尽きるまで愛し抜くと誓おう。女帝として、夫とともに国を守り民を慈み、周辺国と手を取り合い平和を維持していく」


 凛とした声で、言い切ったリアの誇らしげな顔に、次はオレの順番だと気合を入れ直す。


「我、キヨヒト・リラエル・セイ・エミリアス・ラ・コンセールジェリンは、麗しきロザリアーヌ・ジョエル・リセ・エミリアス・ラ・コンセールジェリン陛下の夫となり、愛し抜くことを誓う。異世界人としての知識、聖獣5匹の主君として、この世界を豊かにすることを願う」


 わっと拍手が起こり、リアと顔を見合わせて微笑み合う。この世界では宗教がなく、神も認識されていない。ここを改善するのも、おそらくオレの役目だろう。神が直接世界に干渉できないのは、宗教の概念がないからだ。存在しないはずの神が、この世界に関与できるよう祈りを広げる。


 ま、そんな大層な話は年老いてからでも十分できる。今は奥さんになったばかりのリアと幸せになることが重要だろ。聖獣がそれぞれに寿ぎを贈り、各国からも祝いの品や言葉をもらった。玉座に腰掛けた彼女の脇に立ち、オレは座らなかった。あくまでも主役はリアで、オレは添え物でいい。


 手を繋いで微笑むリアは礼をいい、様々な人々の名を間違えずに呼んで感謝を伝えた。これが国の頂点に立つ者、オレの最愛のリアだ。誇らしくて、胸がいっぱいになった。






 結婚式から6年経って、ようやくリアが32歳の誕生日を迎えた。肉体年齢が16歳になれば、本当の夫婦になれる。各国から届いた祝いを開けながら、ソファで寛いでいた。聖獣は常にオレの側にいるが、今日は気を利かせたのか。夕食の後から姿を見せない。


「き、がえてくる」


 緊張して上擦った声でリアが風呂へ向かう。知ってる、今日は朝からずっと侍女が肌を磨いて、香油を塗り込んでいた。本当は数日前から髪に艶を出す油を塗って、肌のマッサージもしてただろ。オレも同じだからさ。シフェルに言われて、執務以外の時間をマッサージやら髪の手入れに当てた。


 リアがしてくれる努力に、オレも正面から向き合いたいから。彼女はとても美しく成長した。美少女がそのまま大きくなったんだが、胸元もふっくらとして、腰が柔らかな曲線を描き、表情が穏やかになった。きっと気を張る生活で、常にピリピリしてたんだろうな。それがなくなったから、表情が幼くなった時期もある。今は溢れ出る魅力と色気がすごくて、日々我慢だった。


 この我慢に関しては、シフェルも褒めてたぞ。レイルは、よく襲わないもんだと感心してた。そりゃ暴走しそうな時もあったけど、彼女の笑顔や信頼を曇らせたくない。夫だけど、彼女の体はリアのもので、オレが勝手に触れたりしていいわけじゃない。この一線だけは自分に言い聞かせた。オレはリアに触れていい立場を得ただけで、許可を出されるまでは動けない。


 2年前に復帰したじいやが用意するガウンに着替え、オレは再びソファに腰を下ろす。が、落ち着かなくて立ち上がり、みっともないからまた座った。繰り返すこと数回、ようやくリアが戻ってくる。


 この日のために用意したのだろうか。素肌の上に淡いピンクのベビードール。いやらしくないギリギリの透け感が、緊張を高めた。大丈夫か、オレ。誤発射したら取り返しがつかないぞ。胸元のリボンが揺れてるが、あれは引っ張っていいのか。ただの飾りだったらカッコ悪い。そわそわしながら彼女の手を取った。


 照れているリアと一緒にベッドに腰掛け、手順を思い出す。まずはキスから……そう思って隣を見ると、リアがほわりと笑って首に手を回した。驚いている間に唇が重なる。ぺろりと舐める舌に誘われて唇を開いたら、美味しく頂かれた。


「っ、リア……ぁ」


 押し倒されてオレが、下? え? なんで!? 焦ってる間にリアが胸に顔を埋めて笑い出した。


「そんな緊張してたら、何も出来ないよ」


 へたれ過ぎる。まさか、リアにリードしてもらうなんて。くるっと半回転して上下を入れ替え、リアの上に覆い被さった。ドキドキしてるのはリアも同じだ。それに、胸が……どうしよう、柔らかくて。伸ばした手でそっと触れた。そこからは夢中だ。


 どうやってベビードールを脱がせたのか、いつ自分がガウンを脱いだのか。まったく覚えていない。ただリアが柔らかくて、幸せで……甘い香りに酔っていた。


「おはよう、セイ」


 何でもないフリをして挨拶するリアだけど、首や耳が真っ赤だ。昨日付けた痕を見つけて、オレも照れてしまった。起き上がってリアを引き寄せる。素直に倒れたリアを受け止め、額や頬にキスを贈って、最後に唇を重ねた。


「んっ……」


「おはよう、リア。オレの大切な奥様」


「ふふっ、これで夫婦だな」


「今までも夫婦だよ、これからもね」


 末永くよろしく。そう告げて、笑いながらキスを繰り返す。リアの黒髪は長くなって、今は腰まで届く。儀式や式典の際に結うのだが、一房長いまま残すことが多かった。その黒髪が豊かに実った胸にかかり、まろやかな腰まで届く姿は、いつ見ても眼福で幸せだ。こんな素敵な子がオレの嫁になる。異世界転生系の物語でも、最高のシチュエーションだと思う。


「今日は静かだな」


「起こしに来ないよう命じた。用があれば呼べばいいから」


 首や耳の赤が顔にも広がって、照れたリアの頬を両手で包む。そのまま固定して唇を貪った。可愛い赤い舌も吸い上げて、息が乱れたところで囁く。


「愛してる、リア。もう一度……食べさせて?」


「……いくらでも」


 息が乱れたリアの目が潤んでいる。カミサマを恨んだこともあったけど、今はただただ感謝だけ。オレを日本で殺してこの世界に落とし、リアと出逢わせてくれた奇跡に祈る。いずれ、カミサマをこの世界で有名にしてやるよ。聖獣と一緒に祀ってやるからな。


 ――楽しみにしておく。


 ふっと聞こえた幻聴のような声に「覗くなっての」と心で文句を並べた。目の前の可愛いお嫁さんがぷっと頬を膨らませる。シーツから溢れた象牙色の肌を、日差しが明るく照らし出した。落ち着け、オレの息子、暴走したら嫌われるぞ。


「私以外のことを考えたか?」


「いや、いつもリアのことだけ考えてる」


「それならいい」


 ヤキモチ焼きがこんなに可愛いのは、リアだから。ずっと並んで生きていこう。長い竜の人生を終える時、また一緒に人生を過ごしたいと思えるように。


 愛してる。オレはこの世界でリアと生きていく――。







 The END……











*********************

完結です。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。キヨが結婚して幸せになるところまで、最初からENDだけ決まっていました。思い通りにいかない部分もありましたが、楽しんでいただけたなら幸いです_( _*´ ꒳ `*)_またお会いしましょう!

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