241.東の国を占拠せよ(3)
この世界の常識がない自覚はあるので、後ろを振り返ってヒジリを手招きした。尻尾を振りながら近づく黒豹に尋ねる。
「なあ、どうして獣人が風呂を嫌がるんだ? お前らは平気だろ」
ぴしっと尻尾が床を叩く。髭がピンと前を向き、目を見開いたヒジリが抗議した。
『我はいつも綺麗に毛繕いしておる! 風呂など不要だ』
あ、コイツ風呂を嫌がる猫と同じ反応しやがった。つまりあれか? 本能的に獣人は風呂が嫌いとか……。
うーんと唸ってる間に人間が数人、さっさと脱ぎ始めた。ボロ布みたいな服を丁寧に畳んでいる。あれも何とかしてやらんと。いくら体を洗っても、服が臭ければ同じだ。魔法で服って作れるの?
悩んでいる間に、目の前で少女が胸元の布を……おっと!
「ちょい待って。なんで男女一緒に入ろうとしてるの」
収納から出したタオルを投げつけ、胸元を覆うように説明する。言われた通りにした少女は、あまり羞恥心はなさそうだけど。問題あるぞ。
「いつも同じ、何が問題か」
「いつも? お風呂入れてもらってたのか」
ちょっとほっとした。意外と普通の扱いしてたのかも。そんな幻想を、一瞬で砕かれた。
「牢内で水を掛けられる。皆んな一緒」
それってホースみたいなので濡らしただけじゃない? 確かにそれなら服着てるし、男女関係なく水掛けるだろうけど。
「まず、女性から入ろうか」
男女が一緒に入らないようよく説明し、女性達にお土産の中から石鹸を渡す。リアムが好きかと思って薔薇の刻印が入ったの買ったけど、また買えばいいや。渡して泡立て方を教え、洗ってからお湯に入るよう説明した。髪もよく洗えよ。
「男はこっち」
手招きして一度風呂から出る。彼らは着の身着のまま、もちろん着替えなんてもってないはずだ。オレの服はサイズが合わない。
「なあ、レイル。服の調達任せてもいいか?」
「年齢もサイズもバラバラか。難しいが……」
そうだよな。サイズ分からないもん。女の子の下着とかどうするよ。汚い黒く染まったボロ布着たら、せっかく洗った石鹸の香りが台無しだ。
『主人、作ったらどう?』
『そうですよ、主様なら難しくないかと』
コウコとスノーの言葉に首を傾げる。すると少年姿のマロンが自分の服を引っ張った。
「これも魔力を変換しています。作れると思います」
なん、だと!? 魔法って本当に万能だったんだな。使えないと思って放置しないで、もっと極めればよかった。人生はまだ長そうだから、平和になったら研究してみよう。
「よし、服を作ろう!」
気合を入れたところに、上の階を探っていたライアンが戻ってきた。
「上のクローゼットに服がたくさん残ってたぞ」
「「……え?」」
見落としたオレと、手配しようとしたレイルがハモった。
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