191.朝食は目玉焼きだろ(3)

 必死に訴えた結果、最初にオレの勘違いを指摘したのは、またしてもブラウだった。さっきから足元の影に手をついて顔と前足だけ覗く青猫は、思いがけない指摘をした。


『料理チートの異世界漫画読んだ知識だけど、日本以外の卵は生で食べられないんだってさ』


「知らなかった」


 卵ってスーパーでしか買ったことないから。言われてみれば、鶏の住んでる環境は藁の上にフンや抜けた羽根が散らかってた。あの上に落ちたら、大腸菌とかつくだろ。鳥も大腸菌でいいのか? まあ重要じゃないから流そう。


 殻は食べないから平気だと思ったけど……確かにこの世界に来てからオムレツになったり、固ゆでの卵は食べた。豆腐と並んで夢の食事に「TKG」がランクインするのか。生卵を温かい白米の上にかけて、醤油で食べる……いつか魔法で叶えてみせるぞ!


 ぐっと握り拳で頷くオレのつま先を、ブラウがぽんぽんと叩いた。


「ん?」


『TKGできたら、僕にも一口』


 アニメで観た憧れの食べ物らしい。しょうがねえな、オレの感動を少しだけ分けてやるよ。まず鶏を見つけて来い。ひそひそと命じると、面倒くさそうにしながらも青猫は頷いた。そうだ! 孤児院の土地に空いた場所があるから、情緒教育を兼ねて鶏を世話してもらうのはどうだろう。


「いずれ、半熟の目玉焼きも食べたい」


 広がる夢を広がるままにうっとりしていたら、ノア達は自分の仕事を淡々とこなしていた。


「キヨ、朝飯出来たぞ」


「おう、ありがとう!!」


 収納から聖獣用の器を取り出す。大型の収納物を片っ端から預かったため、最近の傭兵達は収納内に余裕がある。そこへ食器や鍋を詰め込んでもらったので、オレがいなくても料理は出来るようになった。その場合の材料は現地調達となるけど。


「この魔獣、食えそうだぞ」


「「まじで?」」


 ジャックが倒して放置した巨大ネズミを引っ張ってきたジャッキーに、引きつったオレの声が返る。なぜか複数の傭兵がハモった。近づいたジークムンドが、ジャッキーの黒髪をぐしゃぐしゃに乱しながら「まあ、食えなくはない。まずいが」と付け足す。


 どうやら非常食として食べられるらしい。ジークムンドの言葉から判断して、オレはボスとして言い放った。


「よし、今日はそのネズミは保存することにして……作った飯を食おう」


 どちらも傷つけないよう、遠回しに断る。空気を読む日本人らしさを最大限に発揮し、くるりと背を向けた。その後ろからネズミを引きずるジャッキーがついてきて、串に刺して焼き始める。さあ、このネズミを食べる羽目になるのは……誰だ?!

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