15.訓練は、三途の川原でした(3)

「ふーん、かなり魔力を使ったな。バズーカ砲の次は大砲か?」


「情報担当なら、もう知ってるんだろ」


 髪を引っ張る手を跳ね除けて、べっと舌を出して切り返す。くつくつ喉を鳴らすように笑ったレイルへ、シフェルが苦言を呈する。


「レイルさん、遅刻です」


 え? そこ? 銃弾を撃ったことはいいんだ? 戦時中だから油断する奴が悪い、勝手に死ねって感じだろうか。本気で学ばないと死ぬな、これは。


 老衰まで生き延びる決心を新たに、拳を握り締めた。


「ナイフも情報も実戦で覚えるしかないが、順番はもう決まったか?」


 レイルが淡々と話を先に進める。議事進行役としては、真面目すぎるシフェルより向いてるかもしれない。自分勝手な奴みたいだけど、仕事に関しては信用できそうだった。


「短期集中、総がかりで行きます」


 ……は?


「あの、オレが死ぬ予感しかないけど」


「死んだら終わりです」


 物騒な一言で切り捨てられた。


 いや、ちょっと待て。異世界人は大切にしてくれるんじゃなかったっけ? 国の予算が付く、竜の純血とやらだろ! 珍しい異世界の知識がどうとか……え? マジで?


 見回した先で、全員が視線を逸らす。シフェルに反論できない弱みでも握られてるのか、彼らは誰一人庇ってくれなかった。レイルだけは視線を合わせてくれるが、親指を立てて「頑張れ」と意味不明の激励を送られる。


「マジ、で?」


「はい。あ、私は戦術ですがも協力して差し上げます」


 満面の笑みのシフェルは、今までの仕返しする気なのか。初対面で投げたナイフの傷か? クリスの胸揉み、バズーカ砲事件、拝謁時のあれこれ……うん、心当たりしかない。


 かつての己の言動を反省しようにも、後悔していない自分がいて。謝罪なんか今更通じないだろうし。


 ここは、三十六計逃げるになんたら!


 オレは背を向けると全力で走って逃げた。





 とりあえず武器だ、武器が要る!


 応戦するにも撃退するにも、武器は絶対に必要だった。アイツらはいいさ、収納魔法みたいなの駆使して手ぶらに見えても武器を確保してる。オレはまだそんな技術?はないので、本当に素手だった。


 武器、武器……いくら戦時中でも、庭や床にそんなものが落ちてるわけがない。


 全力で逃げる背中から、物騒な気配がした。絶対に銃口とか向けられてる! 振り返る余裕すらかなぐり捨て、やっとの思いで宿舎に宛がわれた建物の入り口をくぐった。


 途端にぞくりと悪寒が走り、手をついて一回転しながら右側へ避ける。床に突き刺さったナイフに目を留め、柄を掴んで引き抜いた。

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