15.訓練は、三途の川原でした(2)

「よろしく」


 さっと手を出して握手を求めると、こちらの世界でも同じ習慣があるようで、彼は一瞬目を見開いたあと握り返してくれた。にこにこ笑っている姿は、どうやら気に入ってもらえたらしい。


「よく知っていましたね」


 何かを褒められたが、シフェルの言う”知っている”がわからず無言で見上げる。口より目が物を言うらしいオレの疑問に、笑いながらジャックが答えをくれた。


「ヴィリは東の国出身だから、”握手”って習慣があるけど、この国にはないからさ」


「ああ、なるほど」


 もしかして、東の国の習慣は日本に近いのか。でもアフリカ系の外見……うーん、わからん。オレの知る常識ならアフリカ系は南の国が該当しそうなんだけど。


 南=暑くて日焼けする地域。そんな単純な発想は通用しないらしい。


「魔力の制御は誰が教える? 魔法関連や常識も指導が必要だろう」


 ノアが指摘すると、シフェルは分かりやすく渋面になった。不満たらたらの態度で、嫌そうに振り返り……溜め息を吐かれる。


 なに、そこまで嫌な奴?


「歴史や文化も含め、陛下が担当されると」


「「「「陛下が!?」」」」


 驚いた周囲の声をよそに、オレは安心して頬を緩めた。


「なんだ、脅かすなよ。リアムなら安心じゃん」


「「「「え!?」」」」


 ジャック達の驚き具合に、正直ドン引きだ。最高権力者が教師役は珍しいだろうが、リアムとオレは仲良しだぞ。しかも彼は暇らしいし。なぜそこまで驚く。まあ、一番失礼なのはシフェルの渋面か。


「愛称、か?」


「たぶん」


「あの陛下が…」


 ひそひそ顔を突き合わせて話している彼らには悪いが、何も不安がない。気心が知れた友人――しかも眼福美人――が指導役ならば頑張れるぞ。






「っ!」


 嫌な感覚を信じて左側へ逃げれば、足元に銃弾が撃ち込まれた。避けなかったら足の甲に穴が開くところだ。


 銃声の直後、ジャックとノアは己の銃を抜いて構え、サシャやライアンも身を伏せた。ヴィリも手を腰に当てて姿勢を低く構えている。


「いつまで遊んでるんだ。忙しい中来てやったんだぞ」


 文句を言いながら銃をしまうレイルが顔を見せた。呼ばれて顔を見せれば、訓練もせず世間話を繰り広げる連中に腹が立ったようだ。短い赤毛をかき乱した手を伸ばし、オレの髪を摘んで眉を顰めた。

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