19.闘争より逃走(4)

「へ?」


 なんで? 疑問のまま、もう一回火を放つ。が、やはり届く直前で消えた。黒豹は当然無傷だ。何が起きたのか分からないが、結界の魔力は感じられなかった。


 固有の能力とか? なにそれ、ゲームみたいでずるい。


「……やばい」


 足を止めた上、豹は目の前。じりじり近づいてくる豹に後ずさりし、今度は銃を抜いた。こっちは使えるだろう。これが弾かれたら、見えない結界の存在を疑うしかない。


 パンパン、2発放ったうち1発が豹の後ろ足付け根付近に当たった。


「え、銃はOKなの?」


 状況を整理したいところだが、敵は目の前で唸りながら牙を剥いている。検証は後回しだ。もう1発放って眉間を貫くつもりが、避けられた。そう、豹は横とび出来る。逃げるなら良かったが、捕獲命令に忠実な豹はそのまま飛び掛ってきた。


「ちょ、無理無理ぃ~」


 叫んで全力で走り出す。木から落ちた時に痛めた右足首が痛いが、止まる余裕はなかった。振り返った先で、黒豹は付いてくる。しかし追いつかない。


 奴のが足は速いのに?

 

 もしかして、どこかへ誘導されてる可能性ないか? 疑問が浮かんで、魔力感知を出来るだけ広範囲に散らす。網の目が粗くなったが、かろうじて反応があった。2人……おそらく追っ手だ。


 豹に追わせて捕まえる、または疲れたところを捕まえるつもりか。どっちにしても――そんなの狡い!! オレは自分の力で頑張ってるのに、魔獣使うのは卑怯だ。


 意味不明の怒りがわいて、近くの木の幹に抱きついた。勢いでぐるりと回転し、一時的に豹の後ろに回りこめる。ベルトから銃を抜きながら安全装置を外して撃つ。この訓練はレイルに言われて繰り返し行ったから、考えるより早く身体が動いた。


「うっし!!」


 ガッツポーズが出た。やっと一息つける。豹は怪我をしているが、まだ死んでいなかった。伏せて唸る黒豹の前に近づき、ぽんと背中を叩く。


「悪かったな」


 追いかけて来れない状況なら、殺す必要はない。そのまま立ち上がって歩き出すが、無理して走ったのがいけなかったのか。徐々に右足首が痛くなってきた。


 捻っただけじゃなかったりして。嫌なフラグを立てながら足を引き摺って進む。茂みの間で少し休もうと転がり込んだところ、そこに地面はなかった。踏みしめるべき地面がない宙を左足から落ちていく。


「まぁ~たぁ~かぁ~~!?」


 前世界での死因は転落死でした。つい昨夜も3階から飛び降りて、今回もまた。

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