174.知らない天井と収納物(3)

 頭が働かない時は睡眠が足りないのさ。自分を納得させ、オレは結界内での安全な睡眠を貪ることにした。


「うそぉおおおお!」


 ぐっすり眠った翌朝、オレの叫びで全員が飛び起きることとなった。




 遡ること数十分前――夜早く寝たおかげもあり早朝に目が覚めた。夜明けと言ってもいい。外の空気はまだ冷たく、伸びをしてから身体を解した。


 官舎にいない時は、早朝訓練という名の襲撃がない。時間が余ったオレは昨夜の酒の出所を思い出した。


 収納空間はオレが入れた物が入っていて、オレの希望で取り出せる。ところが昨夜に取り出した酒に心当たりはなかった。入れた覚えのない物が入ってるのもおかしいが、取り出そうとしてない物が出るのはもっとおかしい。


 首をかしげてからテントを振り返る。まだ彼らが起きてくるまで時間がある。危険なのは、ヴィリに預かった爆弾くらいか。あと、ライアンの銃も危険だな。


 考えながら移動し、テント村と化した中庭の端へ移動する。武器だけ、着替えだけ、食料だけ、と細かく分類して取り出した。記憶とメモにある物をすべて出した後、魔法の呪文を唱える。


「空にな〜れ」


 その直後、見たことのない物がどっさり積み上がり……朝の叫びに繋がった。




 襲撃と勘違いした数人が銃を片手に飛び出す。見張りは慌ててライフルを構え直し、テントの一角が崩れた。


「どうした、キヨ」


「敵が戻ってきたのか!?」


 駆け寄った連中は、大量に積まれた物資の前で不思議そうな顔をした。オレの収納が非常識なのはある程度承知していても、これほどの量を保管していたのは知らない。シフェルに秘密にしろと言われたのを今さらながら思い出した。


「……その荷物はなんだ?」


「オレの収納と、影の収納から出した」


 ごめん、聖獣のせいにした。空気を読んだのか、聖獣は誰も出てこない。顔を出そうとした青猫を引き戻す黒い手はみたけど。


「ああ、なるほど」


「それで驚いたのか」


 ほっとした様子で担いだ銃に安全装置をかける傭兵に「悪い」と謝罪した。早朝なのに大声出したのはオレのミスだ。ひらひら手を振って寝に戻る奴と、起きたついでに身体を動かす奴に分かれて解散となった。


「それで? 実際のところは何があった」


 ある程度詳しく知っているジャック班に、オレは最後に出した荷物を指差した。


「オレが収納に入れたものは、自分でメモして管理してる。そんで、これはオレが入れてないのに、収納から出てきた物」


 しーんと沈黙が落ちて、傭兵達は口々に好き勝手言い始めた。


「……昨日の酒が残ってるんじゃねえか?」


「二日酔いは辛いからな」


「寝ぼけてたのかよ」


 ライアン、ノア、ジャックの順で理由をつけて片付けようとされたが、そうは問屋が卸さない!! この言い回しも、この世界で通用しなそうだが。


「違う! 本当にオレが入れてないんだ! 大体昨日の酒だってそうだろ。オレが自分で出したら気付くし、覚えてる。飲む前に酔ってたと言いたいのか!?」


 力説したオレに、ようやくサシャが「確かに変だった」と理解を示してくれた。

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