291.作戦名がブーイングで却下(2)

 不貞腐れている間に、ベルナルドが無難な作戦名をつけた。気に入らないが仕方ない。リアムも賛同してるし。


「では、我が君。第9区奪還用爆撃作戦の指揮をお願いいたします」


 頬を膨らませたオレの姿に気づき、さり気なくオレを前に押し出す。リアムは作り終えた爆弾を両手で抱え、子ども達と目を輝かせていた。現場を知らないって、ある意味幸せなことなんだな。戦場の激戦を潜り抜けさせられたオレに、あの純粋な眼差しは眩し過ぎる。というか、リアムは後方支援だからね。爆弾投げは傭兵と獣人のお仕事です。


「爆弾投げに関しては、傭兵と騎士、獣人の中で腕力に自信がある者に任せる。それ以外は後方支援で、ケガ人の手当てや爆薬の補充をお願いするよ」


「え? 投げさせてくれないのか?」


 きょとんとしたリアムに、不自然な咳をして誤魔化す。どこの世界に、皇帝陛下自ら爆弾を投下する国があるんだ。偉い人は自分の手を汚さないものと決まってるし、この世界じゃ違ってるとしても汚したくない。どうしようもない状況で、自衛の為に他人を傷つけたとしても、リアムは気に病むと思うから。


 幻想見てんじゃねえよと罵られても、ここは譲れない。


「リアム、実は重要な任務を任せたい。ノアと一緒に調理をして欲しいんだ。オレの世界に『腹が減っては戦は出来ぬ』という言葉がある。戦場での料理は、生命線だ」


 頷いてくれ。祈りながら待つと、リアムは素直に頷いた。まだ目が輝いているから、きっとオレの下手くそな言い訳を信じてる。ノアが「ご苦労さん」と呟いた。悪いが、子ども達ごと押し付けるんでよろしく。


「じいやはどうする?」


「そうですな……リアム様のお手伝いに入ります」


 ここで面倒を見るとか、余計な表現を使わないところが偉い。護衛や警護も要らないと言い出しそうだし、陛下と呼んだら叱られそうだ。上手にリアムの手伝いという名の世話係を買って出た。任せたぞ。


 彼女は子ども達と安全な場所に残すことが決まり、手早く物騒な役割分担を始めた。


「オレは空から行く。ブラウに風の魔法で援護させるから、とにかく投げろ。相手の居場所がわからなくても投げとけ」


 とんでもない作戦……と呼ぶのも烏滸がましい状況になってきた。敵の居場所が曖昧だし、地図を見る限りどこへ投げても当たりそうなので、こんな指揮になる。獣人達も地図を眺めて頷いた。彼らの腕力は当てにできそうだ。コントロールはブラウに任せる、その為の計画は万全だった。


「ブラウ、ちょっといい?」


 のそのそと顔を見せた青猫は、巨大化すると腹を出して転がった。モフりながら、リアムや子どもの手も借りて撫で回す。


「ゲームしない?」


『主、僕はね……常々思ってるんだ。働いたら負けだ』


「奇遇だな、オレと同じじゃん。で、ゲームに参加しないなら、スノーやマロンとやろうかな」


『何するのさ』


 ふんと鼻息も荒く偉そうな態度の青猫だが、もうすぐ態度が一変する。確証があった。こいつは異世界文化が大好きで、その点においてはチョロい。


「マロンに乗ったオレ、巨大ドラゴン化したスノー、獣人達を援護するブラウに分かれて……点数を競うんだよ。どれだけ敵を撃沈できるか」


 ゲームに興味があるブラウの尻尾が左右に揺れる。だが簡単に乗るようなら、ブラウじゃない。


『僕だけ不利じゃない?』


「ゲームってのは強い奴はハンデを付けるんだけど、あれ、ブラウは弱いの? 自信ないなら仕方ないな、オレが……」


 獣人達と組むよ。そう口にする前に、ブラウがくわっと目を見開いて飛び起きた。勢いで転がった子どもが、ふわりと風に受け止められて着地する。


『そのハンデ、受けるよ。ほら、僕は最強の青猫だからさ』


「さすがはゲーマー青猫だ。よし、これで決まり」


 にやりと笑ったオレの後ろで、ジャックが「お前、本当に口先詐欺師だな」と呟いたが、何も聞こえないぞ。うん、聞こえてないから。

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