101.顔合わせと密談は薔薇の園で(6)

 すべてが環境のせいじゃないけど、この場では言い切った。実際にオレが知る孤児上がりの傭兵達は、気のいい奴が多い。もちろん荒くれ者に分類されるガサツな奴が多いけど、根っこの部分はきちんとしていた。


「たとえば、オレだってそうじゃん。運がよかっただけで、異世界人だってバレないまま奴隷にされてたら? 赤瞳の竜属性だって知らずに暴走して、街ひとつ滅ぼす犯罪者だったと思うよ。奴隷商人みたいな奴に騙されかけたんだから」


 あのまま捕まってたら、絶対に暴走してやらかしてる。あの時はシフェルが止めてくれた。それすらレイルやジャック達が動いてくれた結果だ。彼らは一度懐に入れた子供を大切に保護してくれたんだ。今のオレ自身に何とかしてやる権力がなくても、権力者を動かす力があるなら使う。


 恋人の権力だろうと、使えるなら使い倒してやる。


「検討してみる価値はありますね。孤児院という施設の概要を文官と纏めますので、確認をお願いしても構いませんか?」


 法案として提出する前に確認すると言われ、オレは嬉しくて顔が緩んだ。隣のリアムがそっと手を掴んでくれる。振り返ると、差し出された焼き菓子が待っていた。


「あ~ん」


「ん」


 素直にぱくりと食べる。微笑ましい子供同士の仲良し映像なのだが、シフェルはジト目になるし、ウルスラは驚いて絶句した。過去のリアムの性格からして、ありえない光景なのだろう。


「あなたがいた世界は、いろいろと考え方が進んでいたのですね」


 シフェルがさりげなく話題を反らしにかかった。そこに便乗する形で申し訳ないが、もう一つ複雑な問題が残っている。


「あと、シフェルも同席してもらったのは軍事が絡む事案がひとつあるんだ」


「軍事、作戦に絡む事項ですか?」


「うーん。少し違ってて。捕虜の人権とその後の取り扱いについて」


 また奇妙なことを言い出した。そんなシフェルの溜め息が、如実に彼の心境を示していた。まあいつもの反応なので、今さらオレも傷ついたりしないけどね。


 紅茶が冷めたか確認して、そっと口を付けるリアムが可愛い。隣のリアムの仕草に気づいて、ほんわかしてしまった。こんなに可愛いのに、よく性別を誤魔化してこられたな。惚れた欲目という言葉もあるけど、絶対誰が見ても可愛いと思う。


 愛情駄々洩だだもれの眼差しに、シフェルが焦って口を挟んだ。ウルスラは皇帝陛下が女性だと知らないのだ。こんなところでバレるわけにいかない。


「キヨ、捕虜の人権とはどういった考え方ですか?」


「ああ、ごめん」


 慌てて再び口を開いた。この世界でも捕虜の交換があるのは知っている。そこから先の話は、傭兵の反応を見る限り初耳だろう。


「捕虜に食事や休息をさせる義務はないって聞いたんだよ」


 まずは自分が聞いた条件を確認するところから、再び難しい話が始まった。

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