101.顔合わせと密談は薔薇の園で(5)

「やらかすのは、これからだよ。さっきリアムに説明してたんだけど、オレがいた世界に『福祉』という考え方がある。この世界だと自分のことは自己責任、親がない子は勝手に育て! だろう?」


 顔を見合わせたシフェルとウルスラが頷いた。何を言いたいか最後まで聞いてくれるつもりらしく、口を挟んでこない。その話が切れたタイミングで、侍女がお茶のポットと茶菓子の入った皿を交換した。彼女が消えるのを待って、身を乗り出す。


「まずはオレの知る福祉を説明するから、この世界に合うように変更して欲しいんだ」


 そこから簡単に孤児を養う方法を説明し始めた。貴族のように特権階級の者は『ノブリス・オブリージュ』という義務を負っている。権力を持たせる代わりに稼いだ金で民に貢献しろという意味だと説明したら、あっさり納得された。この世界でも通用する考え方らしい。


 貴族から集めた寄付と税金を使って、孤児に衣食住を与える『孤児院』を作る。親のない子供を孤児院で預かり、成人まで教育して育てるのだ。その後彼らは国民として国に貢献してくれる。子供は国の共有財産という説を、身振り手振り交えて説明した。


「孤児の犯罪者になる率が高いのは、教育がされないからだよ。孤児は大人になっても、傭兵や兵士になるしかないだろ? 他のちゃんとした職に就けるとなれば、真面目に勉強して頑張る子も出てくるはずだ」


「……納得させるのは難しいでしょう」


 シフェルが唸る。孤児=犯罪者予備軍という考え方は、貴族だけでなく国民に広く浸透していた。彼らが収めた税金を、犯罪者につぎ込むのかという批判は想定される。


 うまい説得なんて出来ないから、知る限りの知識を並べた。


「犯罪者を牢に収監したら、ご飯代は税金から出てるでしょ? そのお金を彼らが子供のうちに使うだけ。満たされてれば犯罪をする必要がないんだ。だって、彼らはご飯をお腹いっぱい食べたいだけだもん」


 子供の口調になってしまったが、逆に説得力が増したのは不思議だ。ウルスラが「確かにそうです」と相槌を打った。ご飯が満足に食べられない状況だから、食べ物を盗む。でも食べ物がちゃんともらえる環境にいる子は盗んだりしない。そんな必要がないからだ。簡単な理論だが、彼らにとって盲点だった。


「ご飯や服、住む場所があれば盗む必要はないでしょ? さらにその場所を失いたくないから、いい子で勉強もすると思う。子供が盗まなきゃ生きていけない環境を、周囲が作ってるんだよ」

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