101.顔合わせと密談は薔薇の園で(4)
ここしばらく料理が出来なかったので、並ぶ焼き菓子は宮殿の料理人のものだ。戦に出る前に大量に作った菓子は、聖獣や仲間と消費してしまった。わずかに残った紅茶の葉を使ったクッキーを取り出し、手前の取り分け用の小皿に乗せる。
「リアム、あ~ん」
ぱくりと抵抗なく食べるリアムが口元を緩める。このクッキーが彼女の好物なのは知っていた。いつも本当に幸せそうな顔で食べてくれるのだ。作り手冥利に尽きる。
「もう一枚食べる? あ~ん」
「キヨ、少し離れなさい」
溜め息をつく仕草のあと、一人の美人さんを連れて入ってくる。リアムが護衛に命じて呼びつけたのは、シフェルと宰相のローゼンダール侯爵だった。ダークブラウンの髪を持つ美人さんは、シフェルの秘書かも知れない。そう考えたオレの前で、美女は名乗った。
「皇帝陛下、お呼びと伺い参上いたしました。ドラゴン殺しの英雄殿、宰相のローゼンダール女侯爵ウルスラと申します」
「あ、異世界人のキヨヒトです。よろしくお願いいたします」
面接のようにお互いにぺこりとお辞儀をかわす。どうやら握手の習慣はないらしい。リアムに促されて全員が着座した。聖獣達はマイペースで、昼寝続行のブラウの脇で黒猫ヒジリもうとうとしている。コウコは興味津々で身を起こし、スノーは鼻先に止まった蝶に夢中だった。
「こちらは聖獣殿でいらっしゃいますか?」
疲れる程丁寧な話し方をするウルスラに「タメ口がいいです」と要望を伝えるが、「皇帝陛下の御前ですから」と却下された。堅苦しい雰囲気は地味に疲れる。
「黒豹のヒジリ、青猫のブラウ、赤龍のコウコ、白トカゲのスノーです。全員小さくなってもらっています」
相手が敬語だと反射的に敬語で返すのは、日本人なら当然だ。しかしシフェルやリアムは顔を見合わせた後「普段通りでいい」と言われてしまった。さらにウルスラにも同じ言葉を向けられる。
「似合わないぞ、セイ」
くすくす笑いながら指摘するリアムの口に、最後の1枚であるクッキーを入れて黙らせた。おかしいな、そんなに敬語が似合わないか? 確かに使い慣れてないけど、それなりに話せてると思ってた。
「キヨ、今回は何をやらかしたんです?」
やらかした前提で尋ねるシフェルに頬を膨らませ、オレは説明を再開した。
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