101.顔合わせと密談は薔薇の園で(3)
この世界で築かれてきた政を壊す発言をしようとしてる、自覚はあった。それでも差別され、苦しむ子供が減るなら口にする努力をすべきだろう。オレ以外の誰も福祉の概念を知らないんだから。
「オレがいた世界だと『福祉』って概念がある」
「フクシ?」
やはり存在しない単語は自動翻訳されない。ぎこちなく繰り返したリアムに頷いた。近くの焼き菓子をつまんで、リアムの開いた唇に押し当てる。ぱくりと食べたリアムに微笑んだのは、なんとなく満たされたから。竜属性は番に決めた相手に食べさせたり面倒見たがるって、シフェルが言ってたな。
「子供を育てるのは社会の責任なんだ。だから他人の子でも声を掛けたり、気に掛けたりする。その延長で、孤児はまとめて『孤児院』で育てていた」
「孤児の生活費はどうする?」
「税金で払うよ」
「……反対意見が出そうだが」
今までにない考え方に困惑するリアムに、もっと前世界で勉強するべきだったと後悔する。なんでもそうだけど、無駄なことなんてなかった。福祉が発達した世界にいれば勉強しようと思わないけど、こうやって異世界に来たら説明する知識が欲しい。今さら言っても仕方ないけど。
「貴族に寄付させるのは? 人の上に立つ者の義務みたいなの、ない?」
「ふむ……寄付はある。公園や街道の整備費用に使われるが」
「それの孤児版」
「犯罪者予備軍に金を払う貴族はいないだろう」
ああ、そこから説明か。と一瞬空を仰いだ。先が長い。こういう話になるなら、先に捕虜の話をするべきだったか? いや、異世界にない概念を説明するなら長くなるのは当然だ。どちらにしろ同じ結果になったはずだった。
「その辺を含めて詳細な話をするから、
よく宰相とか執政みたいな肩書の人がいるだろう。その人にも理解してもらった方がいい。捕虜や傭兵の話もあるから、軍事面でシフェルも必要だ。単純にそう考えたオレの頬を、両側からリアムの手が包み込んだ。強引に彼女の方を向かされる。
「……私はセイと2人で過ごしたかった」
「なら、今夜も泊まるよ。それならたくさん話ができるだろ?」
目を見開いたリアムがにっこり笑った。嬉しそうな美人さんの笑顔を正面で見る、こちらの頬も緩んでしまう。見つめ合ってにこにこしている子供達に、聖獣達は見ないフリを決め込んだ。
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