18.裏切りか、策略か(24)

「幼馴染で同郷の子がいて」


 子……つまり、ユハより年下か。


「おれは兎なんだが、彼女は鳥だった」


 ふむ……女の子ね。


「鳥は治癒に優れた子が多くて、彼女は軍に協力る」


 嫌々協力させられたパターンか。


「うーん、その子は一緒に逃げる気あるの?」


「間違いなく逃げる」


 言い切ったユハの言葉は強かった。確信があるのだ。ならば構わない。少なくともオレの命を救ったユハが困っているなら、助けてやりたいと思う気持ちは嘘じゃないから。


「いいよ」


「さすがは皇帝陛下だ。心が広い」


「そういうことにしておいて」


 正確には皇帝陛下の盾だけど。ここで素性をバラして計画が頓挫とんざするのもバカらしい。肩を竦めて、空になったカップやポットを片付けた。誰かに見つからないよう銃を枕の下へ、銃弾はポケットに忍ばせる。それからユハに魔法封じの紐を結んでもらった。


 地図をベッドの上に広げ、現在地と思われる場所を指し示す。


「ここが今いる場所で、これから西の首都へ輸送されるだろ。最初は首都へついてから抜け出すつもりだった。だけど、ユハ達がいるから…ここを抜けて」


 地図の上の指を滑らせたところで、奇妙な感覚を覚えた。人の視線に晒されたような違和感だ。魔力感知は切っていないが、特に何も……ん?


 網の目に張っていた感知を解いて、今度は波紋型で魔力を探る。面で広がる波紋に僅かな揺らぎがあった。見過ごしてしまいそうな、本当に微かな反応だ。


 位置は……ほぼ真上。


 ゆっくり顔を上げると、先ほど見つけた黒い焦げがある。視線を落とせば、突然話を打ち切ったオレに不思議そうなユハがいた。彼は何も気付いていない。仲間である可能性がない以上、確実に敵だった。


「……ユハ、敵が上にいる」


 小声で囁いて、ひとつ深呼吸した。


「こっちへ逃げる」


 乗り出した身体で陰にした左手で別のルートを教えながら、わざと右手で違う地点を指差した。右手の指を見ているユハが頷いたのを確認し、オレは地図を畳んだ。


 予想通りとはいえ、こうも襲撃が多いと――懸念が浮かぶ。中央の国に裏切り者がいる可能性がある。それも皇帝のお茶会の場所を特定できるほど、中枢に近い部分にだ。策略で皇帝を排除しようとする勢力の存在を否定できない。


 複雑な状況に溜め息が漏れた。

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