18.裏切りか、策略か(23)

 オレが作ったから味は保証するぞ。遠慮しているのか目の前に正座したユハへ、自作の紅茶入りクッキーを手渡した。口に運ぶ姿を見ながら、ふと気になって尋ねる。


「ユハって、弟か妹いる?」


「いたが……」


 この場面での『が』は類の話だろう。


「そっか、子供慣れしてると思った」


 誤魔化すように笑って見せれば、彼は泣き出しそうな顔で唇を噛んだ。やばい、これは昔話に突入するパターンだ。襲撃の対策を話し合う必要があるのに……。


「弟は、北の国に殺された」


 ああ、予想は大当たりだ。自分から聞いたくせに申し訳ないが、続きも想像がつく。弟が殺された年齢は12歳前後で、オレと重なったとか。


「まだ11歳で可愛い盛りだった」


 うん、わかってた。


「だから北と手を組むのは反対なんだ。一兵士の意見なんて価値がないけど」


 自嘲じみたユハの言葉が気に入らなくて、ふんと鼻を鳴らす。


「一兵士じゃなくなればいいだろ」


「え?」


「他の家族はいる?」


「いや、父母もとうに…」


「なら、オレと一緒に中央へ行こう」


「……は?」


 あれ? 言葉が通じないわけじゃないよな。そんなに突飛な発言したか? 内心で首をかしげながらも、にっこり笑って紅茶を手渡した。


 反射的に受け取ったカップに口をつけたユハが「烏龍茶?」と呟いた。


「お、知ってるんだ。このお茶さっぱりしてて好きだから」


「故郷のお茶だ」


 ふわりと柔らかく表情を崩したユハがひとつ深呼吸して顔を上げた。


「任せる、キヨと一緒に行く」


 お茶ひとつで説得できてしまった。お手軽すぎてゲームみたいだ。ほらあの…『○○が仲間になりたそうに……云々』ってやつに似てる。


「わかった。中央ではオレの下にいる傭兵部隊に入ればいいよ」


 ジャック達なら上手に訓練してくれるだろう。少なくとも三途の川が見えるような訓練はしない、と思う。オレみたいに急速にレベル上げする必要ないから。


 話が決まった途端、ユハは床の上にごろんと寝転んだ。何か吹っ切れたらしい。表情が明るいので、特に声をかけずに隣に寝転がってみた。天井に大きな焦げ跡がある。


 魔法がない世界だったら、なぜこんな場所に焦げが!? となるが、いい加減慣れてきた。誰かが脱出を目論んで燃やした跡か、うっかり失火したか。


「仲間は増えてもいいか?」


「ん、誰」


 ユハの問いに、軽く返す。起き上がったユハが、眉尻をすこし下げる。


 あ、厄介ごとだ。ぴんときた。こういう場面で提案される仲間は、たいていいわくつきで騒動の原因になる。

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