18.裏切りか、策略か(22)

「本当に…来るのか?」


「たぶんね」


 若くんを含めた護衛の人達は、拘束されたオレが中央の要人の子供と聞かされたらしい。正確には皇帝(代理)だよと教えた時の驚きは凄かった。


 この世界には写真がない。銃は前世界と同水準なのに、文化は中世ヨーロッパと変わらなかった。そのため要人の顔写真は存在しなかったのだ。遠くから見たことがある、または美化した似顔絵を見たことがあるレベルだった。


「しかし……」


「それより、名前を交換しようか。オレはキヨ」


「わかった。ユハという」


 通称だと前置いたが、若くん改めユハはそもそも皇族や王族の名前など知らない。江戸時代の庶民が将軍様のフルネームを知らないのも理解できる。かつての世界観でなんとなく理解を深めながら、左手に巻きついた紐を指差した。


「地図を出したいから、一時的に解いても平気か?」


「特にバレる心配はないぞ」


 あっさり重要事項をばらしたユハの人の良さに、頭を抱えてしまった。聞いておいてなんだが、こんなに簡単に答えていい内容じゃない。


「ああ……っと、ユハ。オレが言うのも変だけど、普通は人質にこんなこと教えちゃダメだぞ」


「そうなのか? 口止めされていない」


「それは上司が無能だ」


 口止めしないことはもちろん、きちんと部下に教育をしないところがダメダメだ。そういえば、傭兵のジャック達も「教育を受けられるのは幸運だ」みたいな話をしていたな。


「じゃあ、ちょっと外すな」


 ひょいひょいと右手で紐を引っ張って外していく。するする落とした紐を横に置き、収納魔法で空間から地図を引っ張り出した。リアムのお茶会でも分けてもらった烏龍茶と自作クッキーも出す。お茶を淹れる道具が必要だと気付いて、今度はカップとポットを取り出した。


 少し考えてから、今度は銃を選んだ。銃弾も用意する。だんだんと増える荷物を眺め、ぽんと手を叩いた。


「ああ、リュックがあった。着替えも」


「……キヨ、様?」


「キヨでいい、何?」


「あまり荷物が増えると怪しまれる」


「あ、そっか」


 残念だが着替えは戻して、リュックも中に放り込む。反撃のために銃は必要だし、当然銃弾も使うよな。


「お茶飲んだら、カップとかも片付ける」


「……そうか」


 お茶を淹れてクッキーを齧る。甘いものを食べるの、すごく久しぶりな気がする。といっても、昨日の午後はリアムとお茶してたけど……随分昔の出来事に思えた。


「どうしたの? 食べなよ」

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