18.裏切りか、策略か(21)
午後のお茶会で黒い沼に飲まれ、夕方に捕獲された。変態のおっさん領主に引き合わされ、殺し屋らしき黒尽くめに襲撃されて生き残る――まさに分刻みのスケジュールだな。
訓練のときもそうだが、この世界に来てから1日の密度が高すぎる。前世界の1ヶ月分くらいの出来事が1日に凝縮された感じだ。
夜明けに寝たのに、2時間ほどで目が覚めた。すっきり目が覚めて気分が良かったので、そのまま起きることにする。ベッドの上で柔軟体操をして、窓の外を眺めた。
ちなみに両手を拘束していた紐は、左手首に絡められている。逃げるつもりがないと理解してもらえたのが半分、拘束された状態で無茶したのが半分だろう。3階から飛び降りた瞬間はオレも終わったと思ったし。見てた連中もそう思ったらしい。
紐があるので魔法は使えないが、魔力感知は出来るし……収納魔法から飲食物や着替えを取り出せない不便さ以外は、まったく問題なかった。ピアスやネックレスによる魔力の圧迫と違い、眠くならない。解いて収納魔法を使ったら、バレるだろうか。
「腹減った」
ぼやいて外の揺れる葉を眺めた。風が強そうだ。
昨日は真正面に見えた大木が、少し左にずれている。まあ木が歩いたわけじゃなく、オレを閉じ込める部屋が隣に移ったのだが……。
昨日とは違う部屋に移動したのは、黒尽くめから逃げる時に窓を割って飛び出したからだ。飛び出してから魔法が使えないことを思い出して青ざめたのも、今になれば笑い話だった。もちろん一歩間違えば、『ザクロ再び』だったのは言うまでもない。
一応『皇帝陛下』扱いなので、寒風吹きすさぶ部屋に再び寝かされずに済んだ。本当に良かった。お陰様でぐっすり眠れました。
窓枠に肘を突いて顎を支え、ぼんやりと外を見つめる。
暗殺者が送り込まれたのは、偶然か。なぜ中央の国の皇帝が拘束された、その夜に来る? 情報が回るのが早すぎるだろう。
どこかから情報が漏れている、としたら……また襲撃される筈だ。オレなら、今日中にもう1回襲撃する――撃退して油断した瞬間が一番成功率が高い。
窓の外を睨み付けながら対策を考えていると、ノックの音が聞こえた。
「起きてるか?」
顔を見せた若くんに笑顔で振り返る。彼は助けよう、可能な限り彼は生かす。首絞められたときに助けられた恩は返しておきたかった。
「何か食べられるなら用意しよう、傷は痛まないか?」
近づいて首についた赤い痕を心配そうに撫でる彼の手を掴み、さらに笑みを深めた。ちょっと若くんが引き気味なのは見ないフリをする。
「ねえ、相談があるんだけど」
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