132.上目遣いで、お兄ちゃん♡(3)

「ぎぶっ! くるし……」


「ああ、悪い。もう着替えないと間に合わないな」


 ……緩めてもらえたはいいが、盛大な勘違いがついた。いいや、もう。機嫌よく過ごしてください、お兄ちゃん。前世界で長男だったから、兄への接し方なんて知らないけどね。


 手際よく下着のみに剥がれて、あっという間に民族衣装が着せ付けられていく。あれだ、着方は着物に似てる。孔明っぽい漢服を着ると、西洋顔のオレは違和感があった。こういうのって、黒髪のアジア系の顔が似合う。


 西洋顔は似合わないと感じるのはオレだけらしい。シンもレイルもめっちゃ白人系だし、王族がアジア系じゃなかった。そもそも北の国の兵士も洋風だったような……あれ? 違和感を感じるのはオレだけのオチか。見慣れた絵と違うから、気になるだけかも。


「キヨ、どっちがいい?」


 レイルが黄色い帯を手に、隣でシンは赤い帯を持っている。どちらでも構わないらしいが、個人的にはこっちだ。


「黄色」


「うん、色感覚が近い」


 満足そうに頷いたシンの呟きに首をかしげた。あっという間に帯が巻かれる。疑問を浮かべたオレの顔に気づいたレイルが苦笑いし、帯に飾りをつけながら説明を始めた。


「民族や国によって色合わせが違う。お前の着てる服に対し、中央や西は赤に近い色を選ぶ。北だと黄色、東や南なら……黒あたりか? とにかく、この感覚が近いと選ぶ服や好みが似てくるだろ。それが大事なんだよ。王族として振る舞うなら特に、感覚なんてのは教えて覚えるものじゃねえから」


 たくさんの事例を並べて教えられれば、答えをぼんやりと導き出せる。だが感覚で選ぶ以上、知らない事例が出れば地が出るだろう。今後北の国に顔を出した際、その辺のすり合わせが楽という意味だ。素直に頷いた。


 西洋人から見れば着物の帯や小物の色合わせがオリエンタルで不思議だし、逆ならファンタジーな目新しさを感じたりする。その目線が揃うのは、オレと北の国が東洋系だったから。別の国の王族を選ばなくてほっとしている自分がいた。細かい文化の違いはあれど、ある程度共有できた方がいいよな。


「ふーん。ところで、シンの属性ってなに?」


 レイルが牙なのは知っている。「きば」じゃなくて「が」と読むらしいが、その辺のこだわりは理解できない。まあとにかく強い方から2つ目だった。オレが一番強い竜だから……同じ親族なら。


「牙だぞ! 北の王族は牙が多い」


 ご機嫌で答えるシンが髪飾りを着けてくれる。花魁の簪みたいなの……やたら飾りがしゃらしゃら音を立てて揺れるやつ。正式名称は知らないが、おでこの上あたりに飾ってた金属製の簾みたいな飾りが揺れる。差し込まれた飾りが涼やかな音を立てた。


「お前、他の奴らに属性尋ねたり話すときは注意しろ」


「赤瞳の竜だから?」


「え? キヨは赤瞳なのか?!」


 レイルとオレの会話に割り込んだシンを見つめ、2人で溜め息を吐いた。そうだった。彼には何も説明してないから知らないのだ。


「順番に話すから少し待って、ね? お兄ちゃん」


 愛らしく作った笑顔で頼めば、不満そうにしながらもシンは自分の着替えを始めた。その背中が拗ねているようで……顔を見合わせたオレ達は声を殺して笑った。

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