133.策略塗れの黒い弟ですまん(1)

 慌ただしく着替えて、呼びに来た侍従の後を付いていく。敗戦国の王族であるシンがここまで厚遇なのは、オレが褒美を願い出た他にも理由があった。レイルの情報操作だ。従兄弟であるシンを助ける目的もあるが、北の国が中央の国に併合されるとパワーバランスが崩れる。


 世界は5つの国でバランスを取っていた。そして世界を保護する聖獣の数も5匹――つまり、世界の調和を取る数字が5であり、それを壊すといろいろ支障があるらしい。過去の教訓として歴史に学んだていになっているが、要はカミサマの決めたルールだ。


 カミサマにとって大事なゲーム盤である世界は、異世界から助っ人を呼ぶほど酷い状態だった。最大の領土を持つ中央の国は皇族が皇帝一人を除き全滅。貴族がのさばり、皇族を蔑ろにする事態となった。北の国も似たような状況で、理を重んじる北の王族が貴族の圧力に屈する有様だ。


 感情で動く西の国は、自治領の身勝手さを王族が後押しする始末で……中央の国の属国となった。これはまあ……皇帝陛下の誘拐を企てた以上、当たり前の結果だ。


 直接かかわりのない東の国は南の国を徐々に侵食し、領土を広げていた。南の国が受けて立ち、今は2国間の領土争いが激しさを増している。国の規模も兵力も大差ないため、消耗戦の様相を呈しており……このままいくと別の国に漁夫の利を狙われるだろう。


 狙いに行くとしたら、魚をくわえるのは中央の国になる。今まで彼らが無事だったのは、リアムを守るシフェル達が、後門の狼を警戒して動けなかったせいだ。貴族の争いが激しい宮廷内にリアムを残して出陣し、戻ったら皇帝陛下が傀儡になっていたら目も当てられない。


 他国を攻めている場合じゃなかった。だから東と南の国は放置されてきたが、今後は展開が変わるだろう。遊撃隊である傭兵を指揮するオレがリアムの味方であり、聖獣と契約した実力者なのだ。ドラゴン殺しの異名を持ち、二つ名も……不本意で厨二っぽいが頂いた。


 オレが東の国、シフェルが南の国を同時に攻めたとしても、聖獣を1匹リアムの護衛に残したら用が足りる。リアムを守りながら他国を攻める体制が整うのだ。


 すたすた歩きながら、隣のシンを見上げる。彼の立場は揺るがないものとしなければならない。北の王族として、中央の国の皇帝にオレを嫁がせ……ん? オレが婿か。まあいい。とにかくオレとリアムの婚約を成立させて、北の国の立場を明確にする。


 他国との婚姻は北の国の安定に欠かせない。自国の有力貴族がのきなみ戦死した現状、王太子が捕まり次の王子がいないのだから、何としても国に帰り王様になってもらう必要があった。

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