133.策略塗れの黒い弟ですまん(2)

 義理の父になる国王陛下はまだ顔も知らないが、問題ない。中央の国の公爵家と皇帝陛下の後見付き、聖獣付き、ドラゴン殺しの英雄様だ。受け入れないなら退位していただくまでだ。悪だくみの笑みを浮かべたオレのおでこを、レイルがぱちんと指ではじいた。


「いてっ」


「悪い顔してんじゃねえよ。北の国の品位が疑われっだろうが」


「……お前の口の悪さも何とかしろ」


 レイルに文句を言いながら、オレのおでこを撫でてくれるシンに「痛かった、お兄ちゃん」と甘えてみる。真っ赤な顔で口元を押さえる兄よ、鼻血が垂れてるぞ。ポケットから取り出したハンカチを渡せば、慌てて血を拭った。


「怖い奴、マジ怖いわ」


 レイルの鼻にシワが寄る。べっと舌先を見せて、シンの隣に並んだ。そっと手を握ってみる。すぐに握り返す兄は、もう鼻血出した変態の欠片もなく笑顔だった。


 うん、弟って立場も悪くない。一方的に庇護されて許される経験なんて、まったく記憶になかった。幼い頃は両親が甘やかしたんだろう。それが長男の特権だと思うが……残念ながら記憶に残っているのは、弟妹が甘やかされる姿だけ。これはどの家庭でも同じだけど。


 せっかく子供の身体に戻ったんだから、甘やかされて幸せに浸る時間も欲しい。この世界に突然きたオレだが、世界のバランスを取って戦う存在オンリーじゃないと思いたかった。


 カミサマがどこまで考えたか知らないが、子供の外見で放り出したんだから、オレが子供返りするのも想定内だろ?


「キヨ、もう一度お兄ちゃんって呼んでくれ」


「うん、お兄ちゃん」


 素直に呼んでやれば、こっちが引くほど喜んでいる。繋いだ手を振りながら歩く。後ろで大笑いしているレイルに関しては、あとで締めればいいや。


「ところで、準備はしたがどうする?」


 今日の夜会で仕掛けるか? そう問われたオレは一瞬で感情を切り替えた。甘えるのはいつでもできる。レイルはにやにや笑いながら、民族衣装の襟を弄っていた。


 瞳の色に合わせた薄水色の絹に、銀の刺繍が施された漢服は、裾に向かって濃色になる。見事なグラデーションの帯は黒だった。赤い髪とバランス悪そうなのに、意外と悪くない。色合わせなのか、瑠璃が連なる耳飾りがぶら下がっていた。ピアスとは別につけたのか。雫型の飾りがしゃらんと音を立てた。


「オレは仕掛ける気はないけど、向こうはどうかな〜」

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