20.振り翳す、正義という名の我が侭(6)

 しっかり叱られ、ジャックの腕が腰に回って抱き上げられる。あれよあれよという間に、ノアの背中に乗せられた。ついでに手の銃も没収されてしまう。


「大人しくしてろ。見つけたら指示をだせ。それ以外は動くなよ」


 一言ずつ、言い聞かせるように区切られた。相当信用されていない。いや、オレが逆の立場でも信用しないから当然なんだけど。子供相手の叱るような口調に、なんだか擽ったい気分になった。


 心配されるのって、不思議な気分だ。


「任せる。で、ターゲットはあっち」


 ユハは少し歩いたので、方角が左側に僅かにずれていた。しかし距離は近づいている。こちらに近づきながら移動しているのだろう。


 赤瞳の状態は気分が高揚するが、同時に魔力を大量消費すると聞いた。眠くなってきたので間違いない。寝ないように赤瞳状態を解除した方がいいかも知れない。


 ここでふと気付く。どうやって戻したらいい?


 故意に赤い瞳になるのは簡単だ、激昂して気分が高ぶっているときにケガをすればいい。理屈はわからないが、自分の血が流れると赤瞳になりやすいのだ。これはリアムから聞いたため、ほぼ間違いなかった。


 だが戻す方法は知らない。背負われたまま唸っていると、ライアンが手を伸ばしてきた。ぽんぽんと頭を何回か叩く仕草の後、目を覗き込んでくる。


「赤い色、消しとかないとマズイぞ」


「赤瞳は魔力が高い竜の証だから、他国には秘密なの。まさかバレてないわよね?」


 同じようにクリスも釘を刺す。どうやら国家機密扱いのようだ。


「バレてないけど……戻し方がわかんない」


 正直に告げておく。ユハに合流しても赤いままだと困るのだ。幸いにしてこれ以上暴走する気配はないが、戻る時期はまったく未定だった。


「「「「……え?」」」」


 騎士を含め数人が振り返った。凝視されて居心地の悪さに顳あたりを指先で掻く。指についた乾いた血がぽろぽろと剥がれ落ちた。森の奥で鳴く鳥の声が妙に大きく聞こえる。


「そんなに驚かなくても……」


 ぼそぼそと口の中で文句を言うが、彼らの凝視する眼差しは揺るがなかった。信じられないと顔に書いた面々は、続いて大きく溜め息を吐いた。


「あなた、無謀だわ」


「つうか、暴走しない方法は知ってたんだろ?」

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