20.振り翳す、正義という名の我が侭(5)
草薮の先を示したオレの指に視線が集まり、すぐに彼らは示された方角へ顔を向けた。ライアンは狙撃を担当するだけあって、目や耳がいい。それでも見えない距離を告げられても、にわかに信じられないはずだった。
「キヨ、何を」
「オレが捜してる2人がいるよ。真っ直ぐに1kmだ」
顔を見合わせた騎士達が、首を横に振った。信じられないと拒否されるのは最初から想定済みだ。だからジャックたちに向き直った。
「ねえ、オレが雇い主だろ? だったら手伝ってよ」
じっと見つめ合う。赤瞳なのに、ジャックは目を逸らさなかった。恐怖心を感じていないのではなく、押し殺しているのが分かる。ぎゅっと握った拳が震えていた。
本能的な恐怖に逆らうのは勇気がいる。オレが瞬きしたタイミングで、ジャックは表情を笑み崩した。伸ばされた手が、銀髪をぐしゃぐしゃと乱す。
ああ、いつもの仕草だ。
この世界に来てから、幼い外見の所為もあってジャック達傭兵は事あるごとに頭を撫でる。髪がぐしゃぐしゃになるほど乱暴に、でも親愛の情を込めた仕草だ。懐かしさにほっとした。実際には数日しか経っていなくても、中身が濃いと時間感覚は長くなる。
昨日の昼前に撫でられた記憶は、オレの中で1週間以上前の感覚だった。
「……しょうがねえな。ちゃんと責任取ればいいぞ」
「ジャック達に迷惑はかけないさ」
「だったら付き合うが、最初に言った1km先にいなければ諦めろ」
しっかり釘を刺された。当然の条件だ。いないからと次から次へ方向転換しながら移動させられたら、結局この周辺を虱潰しに調べるのと変わらないのだから。
「ちょっと、勝手は困るわ」
「1kmならすぐさ。往復で30分前後だろ」
クリスが慌てて止めに入るが、行くと決めたジャックはあっさり言い返した。
振り返った先で、ライアンは銃を点検し、サシャはノアの収納魔法から剣を受け取っている。普段使う長い剣は腰に下げたまま、狭い森の中で使いやすい短刀の握りを確認した。ノアも愛用の銃を手の中でくるりと回し、銃弾ホルダーを腰にかける。
いつでも出られる状況なのを確認し、オレは腰のベルトにかけた銃を確かめる。この状況を前に、クリスや騎士も諦めたらしい。大きな溜め息を吐いた。
「わかったわ。敵地での戦力分散は危険だから、私達も行く。魔法陣ごと、ね」
魔法陣が描かれた大きな布を巻き取る。絨毯を運ぶように、一人の騎士が肩に背負った。他の騎士も各々武器を確認する。格闘戦が得意なクリスも身体を解すと、全員が集まってきた。
魔法陣ごと移動すれば、ユハと合流後すぐに転移ができる。危険を限りなく小さくする提案は、願ったり叶ったりだった。
「じゃあ行くぞ!」
先頭を切って歩き出したオレだが、背後から伸びてきた逞しい腕に捕まった。
「あ?」
「お前は足を折ってるくせに1kmも歩く気か」
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