20.振り翳す、正義という名の我が侭(4)
何をするのか不安になったらしいノアの必死の呼びかけに、にっこり笑ってやる。クリスを含め騎士達が用心して後ろに下がった。
「何を心配してるのさ?」
誰も何も言わない。だが彼らの心配は理解できた。我が侭が通らなくてキレた竜のガキが暴走しかけている――半分当たってる。魔力が一気に増大していくのを感じながら、振り返った。
左手にナイフを持ち替え、立ち上がるときに使った木に右手を当てる。振りかぶって、右手の甲をナイフで貫いた。赤い血が吹き出し、気分がさらに高揚する。
痛みを感じないから出来るが、もし通常の状態だったら躊躇した。人の命が懸かっていても、動けなくなっただろう。
「キヨ、何して……うっ!」
手を伸ばしたジャックに目を向けると、言葉を呑んで一歩下がった。その仕草で気付く。おそらく目が赤く染まっているのだ。外から見ればすでに暴走したと判断されても仕方ない。
「大丈夫、
溢れる魔力が炎のように周囲で揺らぐ。魔力の密度の差が温度差のように対流を作り出し、首の後ろで括っていた髪を持ち上げた。高揚感がそのまま可視化されたような、不思議な光景だ。
痛みは、本来身体を守る警告だ。感じない状態は危険だと知っているから、ナイフをそっと抜いた。そのまま収納魔法の口へ放り投げる。刺した時に筋や血管を切らないように注意したため、思ったより出血量は少なかった。
見る間に右手の傷が塞がれていく。
「キヨ?」
ここにシフェルがいたら叱られただろう。だが彼はいなくて、クリスやジャックにオレは止められない。眉を顰めたノアの呼びかけに口角が笑みの形に持ち上がった。
「始めようか」
溢れた魔力を大きな湖の水滴に見立てて広げた。ジャック達の反応を通り抜け、どんどん広げる。魔獣の魔力が2つ、昨日追いかけまわされた黒豹だ。うろうろ歩き回っていた。まだオレを捜しているか。
小さな2つの反応を見つける。そこへ意識を集中した。まるで目の前にモニターがあるように、映像が脳裏に浮かんだ。
ユハが女の子を背負っている。幼馴染だと聞いたが、ユハの方が年上のようだ。小柄な少女に見えても、種族によって成長スピードが違うから、外見は当てにならない。その場所を頭の中で確定して、方角を確かめた。
急に振り返ったオレの視界から、数人の騎士が後退る。赤瞳の竜は暴走の証だと思っているらしい。
「見つけた、この先1km」
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