20.振り翳す、正義という名の我が侭(3)

 敵じゃないのに攻撃し合った挙句、殺し合いに発展しそうな気がした。逃げるときユハは自治領の騎士服のままで、着替える余裕なんてなかったのだ。追っ手の騎士とユハをどう見分ける? この世界には写真すらないんだから。


「オレが行かないと、顔わからないじゃん」


「正論だが……」


 うーんと唸るジャックの気持ちも分かる。普段のオレならともかく、歩けない明らかな足手まといを連れて敵地で、人を捜すのは難しい。万が一を考えると先にオレを返して、任務だけでも終わらせたいと思う。理解できても、納得したくなかった。


「ねえ、これは私の案だけど……まず全員で一度帰るの。キヨの足を治癒して、新たな編成でここへ戻ればいいわ」


 妥協案だ。待っているシフェルやリアムは心配してるし、報告だけじゃ満足しないだろう。だから顔を見せて安心させてから、また戻ればいい。クリスの言葉に一瞬傾きかけて、警告めいた勘が働いた。


 クリスの案はすごくよく出来ている。全員で帰ることで任務を完了させ、足手まといのケガを治す。万全の体制で再びここに戻る――戻れるのか?


 過ぎった不安を突き詰めて考えてみた。


 目の前でオレを連れ去られたリアムは過保護になる可能性がある。騎士団長であるシフェルも、守られた宮殿の庭から連れ去られたことに責任を感じただろう。オレを連れ戻せば、ユハの話はもみ消されてしまうかも知れない。危険な場所に、再びオレを送り出してくれるのか。


 オレなら否だ。逆の立場なら絶対に行かせない。


「ねえ、戻れる保証は?」


「……っ」


 クリスが唇を噛んだ。息を飲んだ彼女の様子に確信が生まれた。


 間違いない、オレが戻ったら二度とこの国は来れない。ユハの件はなかったことになるか、良くても他の連中が捜して見つからなかったという報告が届く程度だろう。


「ないんだろ?」


 ライアンの腕が支える形から、捕まえるように回された。気づいた瞬間、頭の中がかっと熱くなる。熱だけじゃなく、これは暴走した時に似ていた。


 身体の中心からマグマが溢れるような感覚だ。傲慢で、我が侭で、世界が自分を中心に回るような万能感が生まれる。反射的にライアンの腕を振り払っていた。


 よろめくが、足は不思議と持ち堪える。痛みは感じないのも、暴走した際の特徴らしい。煉瓦の建物を溶かした前回も、小指の骨折の痛みを感じなかった。能力を解放すると細胞が活性化されるのか、傷も勝手に治癒する。


 ふわふわした感覚に支配されそうになり、本能的にヤバいと思った。このままじゃクリスやジャックに襲いかかる可能性もある。制御する方法は知らないが、迷って右手でナイフを取り出した。収納魔法の口から引っ張り出した刃は、まだ血がついている。


「キ、キヨ?」

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