20.振り翳す、正義という名の我が侭(7)

 聞かれたくなかった部分を突くライアンに、オレはびくりと肩を揺らした。動かなければバレなかったが、さすがに背負ったノアには隠しきれない。ぎぎぎ…と硬い音がしそうな動きで振り返ったノアへ、引きつった笑みを向ける。


「いや……たぶん、こう……本能的な、感じ?」


 かろうじて返事が出来ただけでも褒めて欲しい。確信はなかったが、暴走しないといいな……程度で試した事実を知らされた傭兵と騎士は青ざめていく。


 もし暴走していたら、この一帯は火の海か。氷の山か、はたまた巨大クレーターが出現した可能性もあった。国ひとつ簡単に滅ぼす存在のくせに、まったく意識なく使ったと聞かされたら当然の反応だ。


 彼らの命は風前の灯火ともしび扱いだった。


「……ごめん」


 謝るしかなかった。大丈夫だという根拠のない自信はあったが、一歩間違えば彼らを含めてここら一帯を滅ぼすまで止まれなかったのだ。この滅ぼす対象は、捜索されるユハたちも含まれる。


「おれらの命って、文字通り吹いたら飛ぶ軽さなんだな」


 嫌味ではなく、実感として呟かれると耳に痛い。申し訳ないと思うが、なんとかなると軽く考えた部分は確かに存在していた。


「拭いておけ」


 湿らせたタオルを渡され、小首を傾げる。ジャックは苦笑いしながら、オレの指を掴んで拭きはじめた。歩きながらなので、結構手が引っ張られる。白いタオルが汚れていくのを見て、手が血塗れだったのだと気付いた。


 飲んだ薬が効いてるのか、徐々に熱が下がっている。すっきりした気分で上を見上げれば、木漏れ日はかなり明るかった。気分がさらに上向く。


「ありがと」


 それ以上問い詰めたり責める言葉を言わないジャックの優しさに、素直に礼が口をついた。シフェルは意外と子供っぽい性格をしているし、この世界でオトン役に落ち着きそうだ。言うまでもなくオカンの座はノアが射止めた。不動のオカンだ。


「あと少しか」


「そろそろ見える距離です」


 騎士達の話に、もう一度魔力感知する。波紋が広がる中、ほぼ重なるくらいの位置で魔力を感じた。


「ちょっと感じにくいわ」


 クリスが眉を顰める。ジャック達も同様に感知を行ったようだが、首を傾げていた。これだけ近い距離に感じるのに、彼らは感じないのだろうか。


「ん? すぐ隣くらいの感じだけど」


 だから素直に場所を特定して指差した。大きな茂みがあり、確かに人間を覆い隠すくらい出来そうだ。目の前だと言われても、ジャック達は感じ取れないらしい。


「ユハ、いるんだろ?」


「え! もしかして……キヨくん?」

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