170.砦の奪還のおまけ(3)
この世界の人は聖獣の存在を口伝えで覚えると聞いた。母親の寝物語だったり、子供同士の噂で聖獣の存在を認識するのだ。それはどの国でも大差ない習慣らしく、悪戯をした子供に「聖獣に叱ってもらうから」が最強の呪文になるくらい、誰もが知る5匹。
中央の黒豹、北の赤龍、西の青猫、東の白トカゲ、まだ見ぬ南の金ユニコーン。その2匹と特徴が一致する生き物に襲われたら、さぞ驚いたはずだ。外へ転がり出た彼らの目に、空を舞う赤い龍が飛び込んだ。本来は各地を守護するため集まらない聖獣が3匹! と焦ったところに、4匹目の黒豹に乗った子供……南の兵士たちは半泣きだった。
「すみませんでした」
一番立派な鎧を着た人が伏せて謝る事態になり、オレは苦笑いする。裏口から侵入したジャックが、呆れ顔で大股に歩み寄った。
「なんだよ、キヨ。おれらの出番がないじゃねえか」
「うん、思ったより皆が頑張ってくれた」
砦のトップが降参したことで、他の兵士も武器を捨てて投降した。なお諦めずにオレの頭をクリーンヒットしようとした狙撃手もいたのだが、結界にライフル弾が弾かれた後、ライアンに落とされた。銃を持つ右手を撃つとか、容赦ねえな~。
抵抗の意思がない兵士の皆さんに、南の国に帰ってくれるようお願いしてみた。捕虜は足手まといで不要なのだ。本音を隠したお願いに、彼らは驚いて目を見開く。
「い、いいんですか?」
「ああ、家族もいるだろうし。帰って安心させてやってよ。ケガ人も忘れずにつれて帰ってね」
笑顔で送り出すオレの後ろに、正面の門から合流したジークムンドの部隊が並ぶ。ジャックもそうだけど、歴戦の勇者たちの強面ぶりにビビった兵士は、慌てて出て行った。裏口を閉めて、念のためにしっかり施錠する。その上から結界を応用した鍵をかけた。
「これでよし」
後ろから襲われないよう手を打ったオレが振り返ると、刑務所のような光景があった。塀に囲まれた石造りの建物は武骨で、その中を歩き回るのは強面のゴツい男ばかり。時々猛獣ならぬ聖獣が横切る。
「ケガ人はいない?」
「「おう」」
あちこちから声が返り、肩の力を抜いてにっこり笑った。南と東の国に独立を保ったまま手を引いてもらって和平を結びたい。壮大なオレの計画は、こんな序盤で躓くわけにいかない。大切な手駒であり仲間である彼らの無事は、必須条件だった。
「……大変だ、ボス! 地下に何かいる!!」
地下に何か? 嫌な予感がするんだけど、見に行かなきゃダメかな。眉をひそめるオレの隣で、黒豹が無言で影に飛び込んだ。欠伸をした青猫も逃げ込もうとしたので、飛びついて捕まえる。お前らが逃げる時点で予想はついた。続いたオレのセリフは、悪役っぽさ満点だ。
「一緒に来てもらおうか」
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