170.砦の奪還のおまけ(2)

『主殿、それは主殿の魔法で好きにやった方が早いのではないか?』


「あ、そうか」


 聖獣がやったという形は必要だけど、実際にヒジリが魔法を使わなくてもいいのだ。どうせ敵には誰の魔法なのかわからないんだから。コウコの炎は口から吐くので、自分でやってもらうことにした。睨みつけた地面がぼこぼこと持ち上がる。


 魔法はイメージが大事だ。そしてオレの一番の強さは、前の世界でゲームやアニメで鍛えた想像力だと思うわけ。畑の畝にしようかと考えたが、それより最適なものを思い浮かべる。モグラが地面の浅いところを掘ると、自由自在に地面を持ち上げていた。


 芝生を植えたばかりの庭でやられて、母親が絶叫していたのを思い出す。あれの大きいやつを想像すれば、ほら! 


「うりゃぁああああ!」


 大人が一抱えある幅で地面が持ち上がり、時々穴が開いて、また他の場所を掘り返す。繰り返す不規則な動きは、オレが見た芝生の光景の再現だった。人が逃げる方向で穴を掘り、彼らを同じ方向へ追い出すように地面を掘り起こす。


『主殿が吠えては、魔法を使っているのが我でないとバレるのではないか』


 冷静にツッコむヒジリの首にしがみつき、一部を指さした。


「あそこに着地して」


『承知した』


『あたくしは?』


「コウコはまだ遊んでていいよ」


 大喜びで炎をまき散らす彼女は、尻尾をくねらせて別の国旗を焼いていた。その後は砦の中庭にあった大木を松明に変える。まあ石造りの砦だから燃やせる場所が少ないんだけどね。石壁に焦げ目作るだけじゃ満足できない彼女の次の標的は、木製の扉だった。


「入口の門だけは残しといてね」


 お願いするのはこの程度。砦を囲む塀の中なら扉はあとで作れば済むし、的を追い出す作業で扉は邪魔だと思う。隠れてる敵を探すより、扉なしの素通しの方が早いし安全だよね。ここしばらく出番がなかった彼女のストレス解消に、もってこいの木製扉が炎上していた。


「あ、スノーだ」


 室内から窓を破って飛び出した小さなトカゲが、背に翼を現し、一瞬で巨大化した。建物を壊さない気遣いはさすがだが、どう見てもドラゴン襲来。後ろ脚だけで立ち上がって威嚇する姿は、ちょっとファンタージ映画っぽい。その隣に着地したヒジリが、ぶわりと一回り大きくなった。


 空に巨大龍が身をくねらせて炎を吐き、地中から見えない生物に追われた。本当は土を膨らましただけだが、南の兵士は巨大ミミズに襲われたように見えただろう。さらに逃げ込んだ砦の室内の片隅から、大型犬サイズの青猫と白いトカゲが飛び出す。

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