171.やっぱ君かぁ!(1)

 命じたらすぐに従うのがヒジリの良いところ。逃げるブラウはヒジリに胴体を咥えられ、肉食獣に捕食される獲物状態で拘束された。コウコは気にした様子なく、くるりと腕に絡みつく。スノーは影に一度飛び込んだものの、足元をてくてくと歩いてついてきた。往生際が悪いのは青猫だけである。


 砦にある地下といえば、牢屋だと思うだろ? でも違っていた。収納魔法って意外と使える奴が限られる上、そいつが死ぬと、中身が放り出されたり逆に出せなくなったり、トラブルが起きる。食料を預けた相手が死んだら、部隊の生命線が切れるのだ。オレのチート収納と違って、容量も少なかった。


 そのため地下牢ではなく、食料保管庫を地下室に作ったようだ。これなら戦時中に収納魔法の使い手が死んでも大丈夫だし、地下は暗くて温度が低いから保存にも向いていた。


「ここ?」


 頷くジャックの後ろを歩く。聖獣がぞろぞろと続き、ノア達はさらに後ろからついてきた。地下室へ降りる階段は石造りで、壁や床も砦と同じ石材だ。手を触れた石はひんやりしており、螺旋状の階段を10段も降りると空気が冷たく感じた。


 ときおり壁が濡れて、ぬるりと気持ち悪い感触に背筋がぞくぞくする。


「チェーンソー持った殺人犯とか出そう」


『キャンプ場じゃないんだから〜うっ』


 ホラー映画っぽいと呟くオレに、青猫が茶化す。が語尾の辺りで、ヒジリにぎゅっと噛まれて動かなくなった。聖獣が死なないのを知ってるから助けない。黒豹の口に腹を噛まれた姿は哀れだが、そうでもしないと逃げてしまう。ヒジリは黙らせたブラウを揺らしながら、濡れた石段を避けて歩いた。器用だ。


「階段が終わるぞ」


「うん」


 注意してくれたジャックに返事をして、彼の背中を追って左に曲がる。右は何もない壁だった。灯りを持つジャックが、前に翳すのではなく足元を照らしている。おかげで後ろのオレは歩きやすかった。こういう気遣いが、ジャックはオトンなんだよな。口に出さないけど、そっと優しい感じ。


 数歩歩いてすぐにドアがあった。


「ここは食料が入ってた」


 頷いて背中をとんとんする。これで了承したと伝わるだろう。入り口から一番近い場所に食料が入っているのは、理にかなっている。毎日出し入れするし、一番使う物だから当然だ。奥に入れたら出し入れが両方大変になるから。


「この次だ」


 普通なら宝物でもしまってあるかな? と期待する場面かもしれないが、残念ながら落としたのは砦であって城じゃない。しかも元は中央の国の砦だったのを奪われたわけだから、宝物が出ても中央の国庫に納められるのが筋だった。


「馬がいたんだが」


「ああ、うん。たぶん、ツノがあるけどね」


 聖獣達が逃げ出した時点で、相手が残る1匹の聖獣だと見当はついていた。驚きはないが、諦めじみた感覚はある。


「開けちゃって」


「わかった」


 一度中を覗いているジャックは、銃の安全装置を外しながらドアを開けた。

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