239.異世界ロマンよ、粉々に(3)
「すげぇ! よくやった。偉い! ご飯山ほどあげる」
褒められて顔を緩めた青年は、ぽんとエフェクト付きで獣に戻った。
「ん?」
『主殿、あれは魔法に近い。無意識に体内の魔力を操って姿を作ったのであろう』
「つまり?」
『長続きしないってことよ、主人』
コウコが止めを刺した。オレのケモミミ天国は、異世界になかったのか。がくりと膝をついたオレの顔をヒジリが舐め回した。それでも溢れる涙を、さらにブラウが舐めた。
「くそっ、お前ら生臭いんだよ!!」
突き飛ばしたら、ヒジリもブラウもきょとんとしていた。
『意外と元気ではないか』
『ほんと、失礼しちゃうんだから』
ヒジリとブラウに文句を言われながら、唾液で汚れた顔を拭く。うがい用だと言ってノアがお茶を差し出した。笑いすぎて手が震えてるのは、見ないフリしてやる。皆してオレの夢を笑いやがって。
『ご主人様、僕できます』
マロンの呼びかけに振り返ると、ケモミミ少女がいた。コウコが龍の短い前足で必死に化粧を施している。マロンの耳に小さな獣耳が乗り、後ろに立派な尻尾があった。スノーが服の前ボタンを必死に留めている。
猫科の聖獣はオレを慰めにきたが、他の聖獣は揃ってケモミミ少女再現に取り組んでくれていた。感動の涙が浮かぶが、思ってたのと違う。
ロバに似た耳は、おそらく馬か。マロンが金馬だからだろう。耳とセットなのか、隠せない角が額に生えている。あと……尻尾は間違いなく馬だ。近づいて手招きすると、素直に近づいたマロンが躓いた。スカート姿の美少年を受け止めたら、背中に隠しきれない鬣が風に靡いている。
うん……2本脚で立ってる馬だった。
『僕、ちゃんと出来てますか?』
不安そうなマロンの後ろで、スノーが奴隷と作った旗を振って応援している。ダンスがキレッキレで羨ましいな。化粧を担当したコウコは満足そうだが、その化粧品は土産から出してきただろ。
マロンもあれこれ出ちゃってるし……叱ってもいいんだけど、でも。
気持ちが嬉しかった。粉々になったケモミミ浪漫がどうでも良くなるくらい、オレはこいつらの気持ちが嬉しい。だったら選べる言葉はこれしかない。
「すっげぇ! 完璧なケモミミだ。可愛いぞ、マロン。皆もありがと」
コウコとスノーはもちろん、慰めようとしたヒジリとブラウも含んでおく。その意図はきちんと伝わったらしく、照れた青猫を黒豹が影に蹴飛ばした。照れ隠しが過激なヒジリに吹き出し、抱っこしたマロンへ「もういいよ」と撫でてやる。
粉々になった異世界の夢だけど、こいつらがいればいいや。そう思えた。
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