239.異世界ロマンよ、粉々に(2)

『言いたいことはわかる気がするわ』


 すかさずコウコがフォローに入った。ベルナルドはじっくり見た後、横に描き直し始める。無骨な元騎士様よりオレの方が断然上手いはず! 漫画のある国のヲタクぞ!! そう思ったオレの足元に、見事なイラストが描かれた。


 漫画チックではないが、すごく上手い。オレの説明から描いたらしい。メイドさんに猫耳と丸い尻尾――可愛いが、その尻尾はたぶん兎か熊だぞ?


「こんな感じですかな? 我が君」


「ああ、うん。そんな感じ」


 悔しいを通り越して、なんだか目の奥が熱いんだけど。こっちの世界で漫画を流行らせて出版社作ったら、巨万の富を築けそうだな。絶対にやらないけど。こういうのは購入者として楽しむのがオレのスタンスだ。誰かに漫画作らせよう……孤児で絵のうまい子いそうだし。


 絵本があるんだから、漫画を広めてもいいはずだ。この世界はオレの自由なキャンパスだぁ!! いや、ごめん。調子に乗りました。


「これなら話が分かる」


「ベルナルド殿は絵がうまい」


 戻ってきたシフェルが感心したように呟いた。覗き込んだ獣人の青年も少し考え、首をかしげながら変身した。日本の昔のお話アニメで狸が変化するとき、ぽんと煙がでるだろ。あれがエフェクトとして付属してた。


 懐かしさに手を叩いて喜ぶと、灰色の狼だった。鬣や耳の辺りが少し黒い。ゆらりと尻尾を振る狼が何やら唸りだした。あれこれ試行錯誤しているようで、手だけ人間になったり、下半身が人間になったり苦戦中。なかなか耳と尻尾を残すのは調整できなかった。


「おちんちんでかい」


 思わず呟いたオレに視線が集中する。だって、この奴隷だった獣人さんの下半身だけ人間になったんだけど、明らかに立派じゃん。まだ子供だけど、オレがあの大きさになれる自信はない。じっと凝視するオレの目元を、そっとベルナルドが隠した。


「我が君、見ぬふりをするのが礼儀ですぞ」


「異世界人は礼儀知らずで結構ですぅ」


 ブラウを真似て語尾を伸ばし、拗ねた口調でベルナルドに寄り掛かった。くそっ、オレも大きくなるのか? そりゃ大きければいいってモノでもないが、小さいより大きい方が……リアムの負担もあるか。初めての時は小さいと楽? ああもう、分かんない。


「ご覧くだされ! 成功しましたぞ!!」


 ベルナルドが大喜びで叫ぶが、オレの目元を手で覆ってるのはお前だからな? ぐいっと押しのけて指の間から見た獣人は、試行錯誤の末に会得したケモミミ&尻尾の完成体だった。

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