40.預けられた信頼(2)

 話がそれたけど、ライアンほどの傭兵が命と同等に考える武器を子供に預ける――この行為は実力への信頼を示すそうだ。そのためノアは愛用の包丁とナイフ、ジャックもナイフを預けてくれた。


 よくわからない習慣だと思う。武器は自分が持ってないと、緊急時に困るんじゃないか?


 傭兵同士の信頼を示すバロメーターなら、仕方ないが。とにかく預ったライフルを、わざわざ今の場面で渡す必要性がここにあった。群れのボスとして認められる足がかりとして、一流の傭兵が武器を預けたという形を見せ付けるのだ。


「僕の爆弾はありますか?」


 久しぶりに会ったヴィリに尋ねられ、一瞬どれのことか迷う。


「ダイナマイトのほう? 完成品?」


「完成品です」


 信管までセットされた爆弾を取り出し、ヴィリに手渡した。オレの爆発物教育の先生だが、二つ名は「炎爆」だったっけ。正直、爆弾魔のが似合うだろう。とにかく爆発させる。シフェルは解体技術を覚えさせるためにヴィリを教官に加えたが、なぜか爆破技術が異常に向上してしまった。


「これでいい?」


 満足そうなヴィリが自分の作品を撫で回している。最初に会った朝は礼儀正しい黒人さんだと判断したが、爆薬フェチの危険人物だった。切羽詰ったら、オレたちごと吹き飛ばしそうな奴だ。


「騎士団はこちらへ。傭兵はキヨの指揮下に入ります」


 シフェルに簡単な説明は受けていたが、別行動となる。副官を雷神ジャックと菩薩のノアに振り分けるといわれ、初めてノアの二つ名を知った。所以は、優しそうな笑顔でさくっと命を奪う姿だそうで……忍び寄ってナイフで命を狩るノアの笑顔が、容易に想像できる。


「そちら用の転移魔法陣は……キヨに預けます」


 シフェルに巻いた絨毯を渡され、収納空間へ放り込んだ。胸ポケットのメモに追記して顔を上げると、驚いた顔をしている連中がいる。首をかしげたが、手招きするジャックに向き直った。


「騎士さんは裏工作だとさ。戦場はおれらの自由だ。敵を倒しまくれ。ボーナスが出るぞ!!」


 ジャックの分かりやすい小声の扇動に、傭兵達は無言で武器を突き上げた。敵地の真ん中で「おー!!」とか叫んじゃうとバレて銃弾が飛んでくるので、地味だが仕方ないだろう。


 足音を殺しながら歩き出し、ふとヒジリがいないことに気付いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る