第10章 西の国を攻め落とせ

40.預けられた信頼(1)

 転移した先で銃弾が襲ってくる……ことはなかった。この世界に来たときは、いきなり銃弾が掠めていったから用心したんだけど。


 転移したオレの首根っこを掴んだジャックが移動する。軽い感じでもたれてるけど、一応24歳なんで。気を使って欲しいと思う。しかしオレがいなくなった魔法陣の上に、次々と転移してくる騎士団の人数に「あ、オレ邪魔だった」と気付いた。


 そういや西の自治領から戻ったとき、前の人が乗ったままの魔法陣にオレが現れたからぶつかったよな。転移したら避けるのはマナーとして覚えておこう。


 周りは先に転移した傭兵達が各々の銃や武器を点検していた。無駄口を叩かない傭兵達は慣れた所作で武器を構えると、号令もなく警戒を始める。どうやら手順は事前に周知されているらしい。


 今回の出張メンバーに、西の自治領出身の騎士だったユハはいない。裏切りの心配がどうの…ではなく、単純に能力的な問題だった。戦い慣れした傭兵の移動速度についていけないと判断されたのだ。従ってユハは、居残り組の騎士団と訓練に明け暮れる予定になっていた。


「ボス、しっかり頼むぜ」


 傭兵の中でも一、二を争う強面がにやりと笑う。ジャックの頬の傷より派手な、海賊並の刀傷があるおじさんだ。荒くれ者を纏める役目を買って出てくれるおじさん――名をジークムンドという――に、右手をあげて笑った。


「任せろ、ジーク」


「頼もしいな、坊主」


「こら、ボスって呼べ。雇い主だぞ」


 強面おじさんジークムンドが、オレの頭に手を乗せた若い傭兵を戒める。叱りつけるというより、笑いながら茶化した感じだ。


 この場の傭兵達の半分は、戦ったオレの姿を見ているから侮ったりしない。残りについては……金がもらえるから従う雰囲気だった。まあ仕方ない。オレだって明らかに年齢半分のガキが、サバゲーで指揮を執るなんて言い出したら舐めてかかる。


「キヨ、ライフルをくれ」


「はいよ」


 収納魔法で2丁のライフルを引っ張り出す。受け取ったライアンが銃の状態を確認して、自分の収納空間へ放り込んだ。すでに愛用のライフルは肩に担いでいる。彼も収納魔法が使えるのにオレに銃を預けた理由は、先日ノアが教えてくれた。


 ライアンの狙撃の腕は傭兵の間で有名だ。命中度も援護の早さも、冷酷さも含めて彼の実力は評価されていた。一流の名を持つ傭兵である証拠として、彼も二つ名を持っているらしい。聞いても教えてもらえなかったが、近いうちに絶対探ってみせる。ぐっと拳を握った。

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