40.預けられた信頼(3)
「ヒジリ、忘れてきたかも」
呟いた瞬間、足元の影から黒豹が現れた。驚いて後ろに跳び退ったオレは、ノアにぶつかってしまう。
「気をつけろよ、キヨ」
あっさり受け止めたノアに頭をなでられ、憮然とした表情で足元のヒジリを蹴飛ばした。
「どこにいたんだ?」
『主殿の影だ。本来、契約した使役獣は影に入るものだからな』
確かに授業でそんな話を聞いた気がする。当時は自分が使役獣と契約すると思わなかったので、完全に他人事として聞き流した。
「出入り自由なのか?」
『ふむ、かなり自由だ』
つまり主であるオレが危険になったら、影から飛び出てジャジャジャジャーンと助けてくれるわけか。にんまりしながら歩くオレを、周囲が不気味そうに見ている。そういう視線、傷つくぞ。
森の中は茂みや芝のような場所より、小枝が落ちた雑草の中を歩くほうが多い。気を抜いていると枝を踏んで音を立てたり、膝上まである雑草に足をとられて転ぶこともあった。
かなり歩きにくい環境だが、傭兵達は慣れているのか。武器も布を巻くなどして音が出ないよう加工していた。袋に入れると緊急時に取出しが間に合わないので、タオルや包帯状の布を巻いた奴が多いのも特徴だ。
さすがはプロ。サバゲー程度のオレとは経験値が違う。包帯に似た伸縮性の布を歩きながら銃に巻いた。少し先にいたジャックがさっと右手をあげて、隊を制止する。ぴたりと動きを止めた傭兵が一斉に武器に手をかけた。
「撃てっ」
聞こえた号令は、茂みの向こう側だった。オレは本能的に首を竦めてしゃがみこむ。その脇を銃弾が掠めていった。びっくりして詰めた息を吐き出し、考えるより先に身体が動く。左腕を軸にして、銃身の支えにした。見えた敵に向けて「しねえぇ」と念……じゃなかった魔力を込めて引き金を引く。
パン、パン! 小銃や拳銃の軽い音が響く中、3人ほど隣の傭兵が腕を押さえて蹲る。気付いた瞬間に転がって彼の斜め前に陣取った。庇う形で銃を構える。
「動ける?」
「あ、ああ。悪いな」
絆創膏もどきとナイフを取り出して渡す。弾が中に残っている場合は、傷から抉り出して絆創膏もどきを貼ると聞いた。必要になるナイフを手渡したあと、敵へ向けて引き金を引く。
「お前さ、ボスなのに部下の前に立つのか?」
奇妙な質問だと思った。だから振り返らずにオレが知る答えを返す。
「ボスだから前に立つんだろ」
役目のある奴が前に立つのは当然だ。それだけの報酬を得るんだから。少なくともオレはそう考えていた。部下を無事に連れ帰るのも将の役目だっけ? シフェルに教わったのは、そういった分野も含まれていたのだ。
「っ……変な奴だな」
弾を摘出しながら呟く男がナイフの血を拭って、くるりと回して刃を持った。柄をこちらに向けて差し出す。受け取って収納空間へ放り込んだ。
「これを預ける」
続けて小さな銃を渡される。反射的に受け取って、収納空間へ入れた。
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