151.どの道を選んでも赤い(2)
彼女は気づいていないが、シフェルが言わなかった方法もあるのだ。皇帝を排除して下剋上――これはオレの選択肢から真っ先に削除される。しかし貴族の中にはその選択肢を選ぶものも出るだろう。
排除は物理的にも、精神的にも選べるが簡単なのは暗殺だった。
最大の国をまとめる象徴である皇帝は、どんな方法であれ世界の火種なのだ。それを鎮火させようとすれば、どこかにしわ寄せがくる。リアムの耳に入れずに済むなら血塗れの方法でも構わないんだけど……そこで我に返った。
オレ、こんな危険な思考だっけ? 前の世界で他人との諍いや競争が嫌で引きこもったくせに、ここでは好き勝手に世界を弄繰り回してる気がする。手が血に染まっても平気だなんて、オレらしくない。ここは「ざまぁラノベ」知識でチートにスマートに立ち回ってこそ、異世界人だった。
さっきの危険思考がカミサマの仕込みだったとしても、オレはオレだ。操られてなんかやるもんか!
異世界人の心得を読んだ後、リアムと学んだ歴史書で気づいた。異世界人が来ると必ず、戦争が起きる。それは新しい技術が齎されたことによる、傲りや優位性を示す行動だ。銃がいい例だった。
今まで魔法が通用しない世界で剣で戦った人々が、飛び道具を手にしたら他国を侵略したくなるだろう。いわゆる戦国時代に突然現れた「種子島」と一緒なんだから、他国に実力を誇示したいし、優位に立ちたいし、敵を一掃したいと願う。
同時に、自分達が持たない技術や知識を持つ異世界人を奪おうとするはずだ。未来を知ってる人間がいたら、近くに置いて便利に使いたいのが人情だった。
異世界人はいつの世に現れても、戦いの火種になってしまう。だから、料理しか伝えない奴もいたのだと納得した。己の知識が持つチートが、世界を変えるだけでなく、壊す可能性を理解していたのだ。すごく賢い人だったんだろう。
オレに真似が出来るかと聞かれたら、申し訳ないが無理だ。口をついてぽろぽろとチートが溢れ出てるからな。今更取り繕っても遅い。ならば、この世界を壊さないよう、己の手を血塗れにして誤魔化す方向性でいこう。
オレ自身がチートそのものと勘違いさせ、異世界の知識や技術を持ち込まないように努力する。だってオレの希望は、この黒髪の美人さんを着飾って褒め称えて、周囲に自慢しながら、愛し愛されて平和な世界で老衰で死にたいんだ。この願いを叶えるための苦労なら、自分から手をあげて買い取りしてやるよ。
シフェルが身を起こして近づく。
「オレが矢面に立てば、リアムにちょっかい出すバカは減るよね?」
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