151.どの道を選んでも赤い(3)

 意味ありげに笑うオレに、レイルは「呆れたやつ」とぼやいた。そのくせ、真っ先に協力を申し出る。


「協力してやるよ」


「ありがとう、レイル」


 真剣に考えた後、シンが誠意を見せる。彼はヤンデレだから、監禁ルートに走らなかったところを褒めてあげたい。


「私の手と権能が届く範囲で、支持しよう」


 曖昧な言い方しかできないのは、北の王太子だから。己の言動ひとつで揚げ足を取られ、北の国の民を危険に晒す自覚がある。立派な王様になれそうだ。にっこり笑って「ありがとう、お兄ちゃん」と口にすれば、シンがベッドの手前で身をかがめた。


「本当なら危険がない場所で守りたいが……お前はそれを望まないだろう?」


「もちろん。自力で切り開いて見せるよ」


 この世界で大切な恋人が出来て、仲間や友人を得た。兄や従姉妹まで増えたんだから、思うままに生きてみたい。もう引きこもって、ぐだぐだ愚痴を並べる人生は御免だった。


「……何か協力したい」


 隣のリアムの言葉に頷きかけて、焦った。この場にリアムが女性だと知らない者がいるじゃないか!? 慌てて取り繕うとしたオレは手足をばたつかせて奇妙な踊りを披露してしまった。首を傾げたリアムだが、気づいたのはシフェルの方が早かった。


「キヨ、安心してください。彼は知っています」


「あ……っ、そう」


 頷くベルナルドを確かめ、ぐしゃりとベッドに倒れ込んだ。後ろに転がると、くつろいでいたヒジリの上に倒れ込む形となり、不幸な偶然で黒豹の頭にオレの後頭部がぶつかる。ゴツンとかなり大きな音が響いた。


「ごめ……ん、ヒジリ」


『主、殿……っ』


 互いに悶絶しあい、左右に転がって痛みを散らす。ようやく痛みが薄まった頃、涙目で顔を上げると……全員に笑われていた。


 腹を抱えて笑うレイルを止めようとしながら、自分も笑いが抑えられないシン。シフェルは顔を背けて口を手で覆って隠したが、めっちゃ笑ってる。ベルナルドは強面を保ってるように見せかけ、髭がぴくぴく動いてた。


 くそっ、なんて奴らだ。


 むすっと口を尖らせて気づいた。隣のリアムがくすくすと笑っている。貴族令嬢のように、愛らしい手が小さく丸められ、肩を震わせて笑う姿に気づいた。


 ああ、そうだ。道化でも赤い道でも関係ないんだ。カミサマに操られようと、オレの望みはひとつだけ。彼女を『妻』にして、可愛いまま歳をとるリアムを幸せにしたい。


「決めた! この世界で最高位に就いて、リアムをお嫁さんにもらう」


 そのために必要なら、貴族の汚い社会も泳ごう。赤い手を呪うことなく受け入れよう。多くの仲間が必要なら集めればいい。


「だから、協力してよ」

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