第25章 子供は強欲なんだぜ?
152.平凡と呼ぶには異常な朝(1)
夜明け直後に飛び込んできた奇襲のナイフを避けて、ナイフ片手のノアを蹴飛ばす。転がって受け身をとったノアを避けて、窓の施錠を外した。以前は窓を身体で打ち破ったが、修理費が出るまで寒い思いをしたお陰で、建物は極力壊さない方向性で打ち合わせが出来ている。
昨日は昼間から貴族と口でやり合った。午後に義兄や従兄弟とあれこれ準備し、夜は踊る間もなく狙撃されたり毒を盛られる。いろいろ詰め込み過ぎの1日が過ぎれば、朝から日常の戦闘訓練が始まるのはお約束だった。
逆に、これがないと1日が始まった気がしない。
「いくよ」
開けた窓の下に声をかけてから飛び降りる。何も言わずに飛び降りて、下にいた奴を骨折させた経験が生きていた。飛び降りる途中で風の魔法を放ち、落下スピードを調整する。ついでに落下地点も変更した。
少し先の茂みの向こうに着地すると、すぐに転がって移動する。感じた魔力の主は、少し先の木の枝に陣取ったライアンだった。狙撃銃が狙う地点を予想して、もう一度地を蹴る。
「鈍ってるぜ、キヨ」
「そうでもないと思うよ?」
飛び退いた先でオレの小柄な身体を捕まえたジャックが笑うが、腕に囚われたはずのオレの手は、空中で取り出したナイフを喉に押し当てた。両手を離して「降参」と肩をすくめる強面に手を振り、次の攻撃に備える。
最近は互いに弱点を洗い出して、そこを徹底的に攻めるよう話し合いをさせた。傭兵は自己流の動きをする者が多く、騎士や兵士にはない強さがある。その分だけ癖が強くて、数回対戦すると癖が見えてくる。
彼らに言わせれば、同じ敵と何度も戦うことはないらしい。なぜなら敵は殺してしまうか、自分が死ぬためだ。どちらかが排除されれば、確かに同じ相手と戦う可能性は低くなった。
「もしもだよ? オレが敵で二つ名持ちの傭兵を殺そうと考えたら、使い捨ての駒をいくつかぶつける。離れて観察して弱点を見抜いたら、そこを突いて戦う」
そう告げたら、ジャックやジークムンドの顔色が変わった。彼らはバカじゃない。可能性をきちんと説明して、危険度を示してやれば、結論を導き出すことが出来るはずだった。
「ったく、元気だな。昨日はお披露目と夜会だったんだろ?」
呆れたとぼやきながら、銃口を向けるジークムンドへ、じりじりと距離を取りながら笑いかけた。寝起きで結んでいない白金の髪が、首筋の汗に張り付く。
「だから元気なんだよ。やることが見えたからね」
自分の役目がはっきりした。形になった目標を引き寄せるために、何が必要か判断できる状態になったのだ。
知らない場所に放り込まれ、常識も考え方も違う異世界で揉まれた。平和な世界から危険な命がけの戦場に来た変化も大きいが、守りたい人がいて、一緒に頑張ろうと思える仲間も出来た。
ぼんやり流されて生きていく時間はない。貴族の口撃だろうが、弾丸飛び交う戦場であっても、負けてやり直す余裕はないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます