23.聖なる獣って偉いんだってよ(4)

 リアムとヒジリが口を挟むから、どこまで説明したか分からなくなったじゃないか。焼き菓子を口に放り込んで噛み砕いた。最近魔力を使っての訓練や逃走が続いたせいか、髪は肩甲骨を覆う長さになっている。器用なノアが編んでくれたので三つ編み状態だが、邪魔なら切ろう。


『赤瞳までだ』


「そっか、サンキュ。赤い瞳になると興奮状態っていうか、気が大きくなるみたいでさ。手が触れたビルが溶けて、人攫いの下種の頭を砕いたところで……同じように捕まってた子供を逃がしてやったんだけど、これがまたお化け扱いだったな。そこにレイルとシフェルが駆けつけて、オレの作戦勝ちかと思ったところで気絶した。目が覚めた時の至福のひと時は忘れない」


 豊かで柔らかい胸の感触を思い出して顔が緩む。


「そしたら深夜に襲撃されて、シンカーの指令本部を守ろうと戦ったんだ」


「シンカーの指令本部は、セイが全壊させたと聞いたが」


 確かにそれで謁見が早まったんだけど、ちょっと違うぞ。


「いや、半壊だろ。建物残ってるもん」


「バズーカ撃ちこまれて、かろうじて形は残ったが使えないと報告を受けた」


 下からのヒジリの興味深々の眼差しが痛い。無邪気なだけに突き刺さってくる。それとなく視線を落として、紅茶を飲んでみたりした。


 オレは悪くない、たぶん。ちょっと引き金に指をかけただけなんだ。


 心の中で盛大な言い訳をぶちまけて、何もなかったフリで話を続ける。


「3日目にリアムと出会って、運命を感じたな。こんな美人がいるとは知らなかった。お茶会をすれば狙撃されて、犯人を処刑して……一緒にベッドで戯れちゃったし」


 照れて赤い頬を両手で包むリアムは、目の保養になる。本当に美人は得だ。


「次の日は早朝から訓練で死に掛けて……そうそう、レイルなんて毒のナイフまで使ったんだぞ。苦しいし目は霞むわで死ぬかと思った。朝食は乾パンと干し肉、ミルクだなんて。どこの戦場だよってメニューだったな」


「それは初耳だ。どんな食べ物だ?」


 目をきらきらさせるリアムの無知が辛い。なんだろう、この”教えちゃいけない”って感覚は。教えたらいろいろ彼が穢れちゃう気がするし、食べてみたいなんて言われたら息が止まるかもしれん。シフェルに首を絞められる形で物理的に…。

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