23.聖なる獣って偉いんだってよ(3)
素直に紅茶を引き寄せる。そっと温度を確かめてから口をつけた。実は猫舌である。ついでに言うなら、目の前でカップを優雅に傾ける皇帝陛下も猫舌だった。
「「あちっ」」
ほぼ同時に叫んでカップを戻す姿に、足元で欠伸をしていたヒジリが驚いている。多くの侍女が一礼して出て行くと、リアムは目に見えて力を抜いた。薄い水色のシャツに濃いグレーのベスト、金縁の刺繍がされたハンカチを胸元に飾っているリアムは、ぐったり椅子に沈み込んだ。
「セイがいないと落ち着かない」
「いやいや、オレが来て1ヶ月も経ってないじゃん」
笑いながら告げるが、そこで重大な事実に気付いた。すごく沢山の事件や騒動が起きたので感覚がズレてるが――オレがこの世界に来て、まだ3週間程度じゃないか?
怖ろしいほど濃密な時間だが、考えてみたらこの世界の新人じゃん。唸って考え込んだオレの様子に興味を惹かれたらしく、ヒジリが身を起こして膝の上に顎を乗せた。
『主殿は
「あ、うん。そっかヒジリは知らないんだっけ」
無意識に顎の下をなでてしまうのは、実家で猫を飼っていたためだろう。紅茶に口をつけたリアムも大きく数回瞬きしてから口を開いた。
「簡単な報告は受けたが、俺も詳しくは聞いていない」
「うーん、そんなに面白い話はないけど……簡単に説明すると」
ぱくりとクッキーと頬張る。
「別世界から飛ばされて、落ちた先が最前線で銃撃戦の真っ最中。確かレイルの隣に落ちて、ジャックのいる壕へ転がり込んだ。武器がないから銃を借りて敵を倒して、一段落したらジャック達に拘束されて尋問、その後リラと会って」
「……セイ、それは1日の出来事か?」
不思議なことにリアムの声がかすれている。風邪でも引いたのか?
「うん、初日分だけ。どこまで言ったっけ? ああそう、リラの魔力に当たったらしくて気絶して熱がでちゃってさ。寝てる間にレイルが銃だけ回収するって失礼じゃね? 挨拶すらなかったからな、あいつ。翌日は人攫いに騙されて、殴る蹴るの暴行があったけど……あれは児童虐待だぜ。小指が折れて、激痛と怒りで赤い瞳になった」
『主殿……赤瞳の竜か』
いつの間にか乗せた顎を引いて、きちんとお座りしているヒジリに首を傾げた。金の瞳が少し潤んでるように見える。
「説明してなかったっけ? まあ、ヒジリはほとんど知らないことばっかりだよな」
ここで紅茶を一口。さすがに皇帝陛下が用意する茶葉は香りがいい。
「えっと、どこまで話した?」
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