第7章 名誉の傷
27.自己紹介は大切ですが、手合わせですか?(1)
「キヨヒトです。挨拶遅れてごめんなさい」
貴族相手の言葉遣いは習っていない。皇帝陛下のお友達だからなのか、リアムもシフェルも最低限の礼儀作法は教えてくれたが、そこに言葉遣いは含まれていなかった。そのうち、初対面のお偉いさんに無礼を働くんじゃないかと思ったけど、シフェルのお父さん相手は予想外だ。
「あの有名な……! 近衛の騎士やシフェルから話を聞いておりますぞ」
「は…はい」
何が有名なんだろう。シンカーの支部壊したことか? 市場のビル溶解事件? それとも誘拐された話の可能性も……怖ろしいことに心当たりがありすぎる。
後ろから飛んできた蔓をぺちんと追い返しながら、間抜けな返事をしてしまった。
「一度手合わせをお願いしたいですな」
「……いえいえ、オレなんか」
ここは日本人の美徳『謙遜』を発動しておく。体つきもごついし、絶対にこのおじさんと戦ったらマズイ気がする。
剣を振り下ろされたら、受け止めきれずに真っ二つなんて……コントみたいな状況になりかねない。レイルあたりに「受け止めずに流せよ」と笑われそうだが。
「ふむ。なるほど」
納得した様子のスレヴィに首をかしげると、くすくす忍び笑うリアムが種明かしをしてくれた。
「シフェルの父ではなく、兄だ。シフェルは竜だが、スレヴィは熊なのだ。属性により外見年齢に違いが現れることは教えたであろう?」
――お父さんじゃなくて、お兄さん? 口にしなくてよかったぁ…実際には手遅れだが。自分が呟いた内容を忘れて、リアムに笑ってみせる。
「うん、習った」
熊か、大柄なわけだ。って別に属性で外見が変わるわけじゃないか。焦りを隠すオレは、できるだけ端的に答える。そのまま手を伸ばして菓子をひとつ口に入れた。誤魔化すためじゃないぞ。
属性が違うと年の取り方が違うから、シフェルは若く見える。熊属性の方が竜より早く年をとるため、年齢が開いて感じるわけだ。理解はできるが、複雑すぎるぞ。この世界の外見年齢と実年齢の見極め方法は、自己申告か?
属性が違っても、兄弟の顔立ちや髪と瞳の色は同じなのも興味深い。遺伝子検査できたら、解明できるのかな。まあ、こちらの世界にそんなの必要ないと思うけど。
「こちらは聖獣殿か。お初にお目にかかる、スレヴィと申します」
足元のヒジリにも丁寧に応じてくれる。その真面目さは、兄弟だけあってそっくりだった。
『うむ、主のみならず我への挨拶いたみいる』
「ヒジリが賢く見える」
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