26.魔法は無効、魔力は有効?(6)

 褒められてるんだよな? さっきからオレがバカに分類されていた事実が、さりげなく突きつけられている。ちくちく刺さる抜けない棘みたいに、ダメージが蓄積されるんだけど。


 魔力感知を切らない生活に慣れたせいか、突然現れた反応にぴくりと肩がゆれた。パシン、隣でヒジリが黒い尻尾で地面を叩いている。また薔薇の蔓が絡まったらしい。


「誰か来る」


「ああ、あの気配は…」


 複雑そうな顔でオレを見たあと、リアムは溜め息を吐いた。厄介な相手なのだろうか。そう思って探ると、誰かと似ている気がする。この感じは……。


「シフェル?」


「近い」


 当たらずとも遠からず。そんなリアムの断定の直後、薔薇のゲートの前で鮮やかなブロンズ色の髪の男が一礼した。


「陛下、失礼いたします。メッツァラ公爵家当主、スレヴィでございます」


「ご苦労、座られよ」


 皇帝として対応するリアムから、ゲートの前にいる男に視線を移す。シフェルと同じ髪と瞳の色が、明らかに血縁者だと示していた。竜だから見た目年齢が若いシフェルと比べても、兄と言うより父親に近い年齢差がある。


「シフェルの、お父さん?」


 首を傾げて、40歳代のおじさんを見上げる。きっちりと身だしなみを整えた姿は、騎士服がよく似合っていた。シフェルがそのまま年を重ねると、こんな感じになるかもしれない。つまり、モテそうなおじさんなのだ。


「……失礼いたします」


 皇帝陛下の前だからか、堅苦しい態度を崩さないスレヴィが椅子に腰掛けると、オレは大変な事実に気付いた。さっき、このおじさんが『なんたら公爵家当主』って名乗ったよな。だとしたら……シフェルって大貴族の跡取りじゃん。


 でも、オレが知ってるシフェルのフルネームは『シフェル・ランスエーレ』だった。家名が違うのは、何でだろう。お兄さんがいて跡取りはそっちだから、弟のシフェルは分家になったとか?


 考えをどんどん進める間、気付けば相手が貴族なのに挨拶すらしないで唸っているという、かなり失礼な状態になっていた。


「お茶の時間をお邪魔してしまい、申し訳ございませぬ」


「気にせずともよい。プラスの報告であろう?」


 確信を持って尋ねるリアムに、スレヴィは表情を和らげて笑みを浮かべた。笑うと目尻に少し皺がよって、優しそうな雰囲気になる。


「ご明察恐れ入ります。西と北の国へ対して行っていた工作が功を奏し、勢力を2割ほど削ぐことに成功いたしました」


「それは重畳」


「ところで、こちらは新しいご学友ですか?」


 いきなり話を向けられ、挨拶どころか自己紹介もしていなかった事実に気付いた。24歳にもなって、なんて情けない。

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