274.北の国まで(3)
リアム達に見送られて、聖獣の背に跨る。シンとレイルを乗せたコウコが先行したのは、きっと北の国の聖獣だからだろう。後ろを追いかける形でマロンに乗ったオレ、じいやを運ぶヒジリ。最後はドラゴン姿のスノーにしがみついたベルナルドだった。振り落とされるなよ?
空飛ぶドラゴンって、意外と不安定だ。そもそも巨体を翼で飛ばせるはずがなく、魔力で浮いているらしい。そのくせ羽を動かすから揺れる。ベルナルドの「くっ」と堪える声が気の毒で、オレの魔力で支えてみた。
「どう? だいぶ楽?」
「あ、ありがとうございます。我が君」
「あのさ、呼び方がキヨから戻ってる」
支配者の指輪を見て忠誠を誓った時に「我が君」と呼び始めたベルナルドだが、説得して「キヨ様」まで呼び方が砕けたはずなのに。いつの間にか元に戻ってしまった。それを指摘すると、ベルナルドが慌てて「キヨ様」と呼び直した。
北の国までの距離はそれなりに遠いが、聖獣は空を移動する。飛行機と一緒で最短ルートを飛ぶため、歩いて移動した1日半の距離を数時間に短縮した。
「うっ……酔った」
「聖獣様、あり……がとう、ございました」
なんとか礼を言うベルナルドと、気持ち悪いと訴えるオレ。レイルは無言だが青ざめており、シンは気絶していた。よく落ちなかったな。レイルがしっかり腕を掴んで確保してくれたらしい。
意外と涼しい顔をしていたのは、じいやだった。乗り慣れたヒジリにすれば良かったか。でもマロンが泣くんだよな……美少年姿で泣かれると絆されちゃうのが現実だ。
「北の国まで来るだけなのに、重症者でた」
『北の国から、じゃなくて?』
「それはドラマ」
お前、守備範囲が広いな。影から尻尾と首だけ出すのやめとけ。周囲がドン引きだぞ。
「……ああ、その……お疲れ様でした?」
迎えにでた北の国の宰相が、引き攣った顔で頭を下げた。その挨拶が微妙に語尾が高くて、疑問系に聞こえるのは気のせいか。自国の王太子への声かけとしては、ぎりぎりレベルだった。
「シン兄様……お兄ちゃん、生きてる?」
揺り起こすと飛び起きる。
「お、お兄ちゃんは元気だぞ」
うん、見ればわかる。さっきまで気絶してたとは思えない姿で、オレの手を両手で握った。じいやは後ろで静かに控えているし、ベルナルドはよろよろと剣を杖代わりに姿勢を正していた。その剣、鞘に入ってるとはいえ杖にしちゃマズイだろ。
中央の国の元将軍が同行していても、この具合が悪そうな姿から無害と判断されたのは当然だった。周囲で迎える騎士や兵士も、気の毒そうな顔をしている。同時に恐ろしい物を見るような目が、聖獣達に向けられた。
『主様、僕は影に入ってていい?』
「ああ、いいよ」
視線が居心地悪いのか、飛び込んだスノーに続きコウコも影に飛び込んだ。マロンはきょろきょろ見回してから、やはり後を追う。ヒジリは平然と尻尾を振っていた。
「ん? 一緒に行くのか?」
『我は主様の名を持つ唯一の聖獣ぞ、常に同行する』
頼もしい限りだ。でもここで褒めると、青猫や他の聖獣が拗ねるから無言で頷くだけに留めた。
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