274.北の国まで(2)

『絶対に譲らんぞ』


『さっき乗せたじゃないか、次は僕だ』


 この時点で、勢いに押されたスノーも脱落っぽい。ヒジリとマロンの一騎討ちになっていた。しばらく様子を見たが決まりそうにないので、オレが決断すべきだろう。前回、じいやを金馬に乗せて、オレは黒豹だった。今回は逆が順番だよな。


「今回はオレがマロンに乗るから、ヒジリはじいやを乗せてくれ」


『うぬ……』


 主君であるオレの言葉に反論しかけ、だが微妙な状況で口を噤む。ちらっとじいやに目をやると、しっかり一礼して礼儀正しく振る舞った。


「前回マロンにじいやを預けたじゃん、オレにとって必要で大事な人なの。ヒジリに任せたいんだけど?」


 他の聖獣じゃなくてね。そう匂わせたオレの言葉に、黒い尻尾が大きく揺れた。頼られたと喜ぶ黒豹にじいやを預け、これで全員揃ったと思ったら……伏兵がいた。


「我が君、護衛をお忘れですぞ」


 ベルナルドだ。一応前侯爵閣下で、守られる側の人だからさ。敵国ではなく実家へ帰るのに、将軍まで勤めた人が護衛に就いたら仰々しいだろ。説得を試みたがうまくいかず、逆に言い込められそうになる。さすがは侯爵の地位を持つだけのことはある。ただの脳筋じゃなかった。


「わかった、スノー?」


『ドラゴンなら乗れると思う』


 譲歩してくれる空気を読む白トカゲを撫で回した。どこかの使えない青猫とは大違いだよ。ったく。すぐに転移で戻るため、荷物は必要ない。というか、オレは家財道具から食料まで一式持って歩いているので問題なかった。じいやも収納魔法はあるそうで、実家の物置の8畳を想像したそうだ。意外と大きい。しかも中に棚付き。それは便利なのか、便利じゃないのか。


「じいやの収納の棚って、どう使うの?」


「……キヨヒト様の収納の方が不思議ですぞ」


 会話が噛み合わない。そこで部屋の隅でこそこそ確認し合った結果、じいやの収納の謎が解けた。じいやはこの世界の人から「収納魔法がある」と聞いたが、実物を見たことがなかった。その状態で収納魔法を想像したため、実家の8畳間が思い浮かぶ。その部屋は棚がびっしりと並んだ、見事な収納庫だった。


 そのまま再現したわけか。オレは先にノアの収納を見てから、ファンタジー映画の無限に入る空間を思い浮かべた。それが反映されたのだ。じいやの収納は、なんと本人が入って出し入れできるタイプだった。それは羨ましい。でもオレは片付けられないから、今のでいいや。

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