315.首枷は死刑囚の証?(2)

 各国を股にかけるトップクラスの情報屋がコツコツ溜めた「ざまぁ」の種がびっしり。これは使うしかないだろ。


「裁判、好きかも知れない。公平さって大切だと思うし、でも時間がないから短縮でいいかな」


 あまり時間を掛けて3泊以上になったらリアが泣く。そう言いながら、罪状の言い渡ししてみたいと要望を出す。今日はシンと同室だから、強請ってみよう。はっ、これが世に言う枕営業か!? 兄弟でも適用になるなら、そう呼べるかも。


「安心してくれ、罪の裏付けは終わってる。王家にも同様のリストを渡しておいた。お前のために裁判を開いてくれるそうだ」


 なんだ、根回し終わってるのか。それなら枕営業は不要だな。あれだろ、枕を投げ合いながら会話して、勝った方がお願いを聞いてもらえるやつ……修学旅行でやると聞いた。ちなみに運悪く、修学旅行は巨大台風で中止になった記憶しかないが。


「いつからやるの?」


「明日の朝だな。王宮の広間に準備してくれるらしいぞ。何でも国王陛下が気合い入りすぎて、裁判長をやると言い出したそうだ」


「あ、それ。不安しかないやつ」


「本心でも言うなよ? あの人は意外と繊細だからな」


 レイルが笑いながら注意する。繊細な国王陛下なんていないっての。そんな面倒くさい奴が頂点に立ってる国なんか、すぐ乗っ取られるか潰され……ん? 乗っ取られ掛けてたな、そういや。


 マジでメンタル弱い可能性があるので、余計な発言は慎もう。お土産に持ち込んだカレー粉は、薄味カレースープになるそうだ。美味しかったらレシピをもらって、リアに作ってやろう。


 鼻歌を歌いながら、庭を横切った。前回の訪問より花が増えた気がする。迎えにきたシンと手を繋ぐのは、もう……賄賂の一環だ。北の国でのオレの扱いは、幼児だった。シン曰く、いつ誘拐されるか心配で仕方ないそうだ。まあ、オレを拉致ればすぐ国王が従うけど――誘拐できる奴がいたらの話だった。


「父上が、金の分配をすると言ってたぞ。先日から回収した金や宝飾品の中から、立て替えてもらった分を返す予定だ」


 宝物庫はやはり地下だった。東の国がおかしいよな、塔の上って。壊されて落下してたけど、ほとんど残ってなかったし。過去の記憶を探りながら、宝物庫へ向かう階段を降りる。


 宝物庫へ続く扉が、庭の片隅に普通にあるの……おかしくね? 外から泥棒入りまくりだけど。オレが知る知識だと、国王の寝室の書棚が隠し扉になってるパターンじゃん。これでいいのか? 今まで金がなかったから、入っても盗む物ないか。


 途中で蜘蛛の巣に顔を撫でられたような不快さがあって、思わず手のひらで顔を拭った。蜘蛛の巣じゃないみたいだ。眉を寄せたオレの後ろで、ジャック、ノア、ライアン、サシャが引っかかった。


「うわっ、なんだこれ」


「通れないぞ」


 騒ぐ彼らに、シンが思い出したように注意した。


「忘れていた。王族以外は通れないから、そこで待っていてくれ」


「「はぁ?」」


 首を傾げるノアやサシャの横で、ジャックは逆に納得顔だった。


「普通はこういう防衛システムがあるんだよ。聖獣様が機能してる国って証拠だ」


「え?」


 ジャックの説明では、東の国はすでに聖獣との絆が切れかけていたので防犯システムが働かなかったらしい。現時点できちんと機能しているのは、中央と西、北だけだろうと苦笑いした。さすがは元宰相の孫、こういう国家秘密を知る立場だったってことか。


「じゃ、悪いけど待ってて」


 足元の聖獣達はコウコの領域でも関係ないらしい。ヒジリはするりと入り込み、スノーはその背中で寛ぐ。ブラウが何故か弾かれ、ムッとした顔で何度も押す姿が笑えた。肉球、めっちゃ見えてるぞ。腹を抱えて笑うオレに、マロンが恐る恐る手を伸ばして、当たり前のように抜けてきた。


「コウコの祟りだな」


『僕だけぇ?』


 叫んだ後で思いついたらしく、一度影に潜ってからオレの足元に顔を出した。にやりと笑った猫の手を、見えなかったフリで踏ん付ける。何故だろう、青猫って踏みたくなるんだよな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る