59.拡大する戦場(2)

「ええ!? 相手のが数多いじゃないかよ」


 唸りながら、敵を示す点を両手で覆って色を付けた。オレ達を示す白い光じゃなく、赤い光のイメージだ。点滅信号を思い浮かべたら近い。敵だけ色が変わったので、これで距離が近くなって混じっても間違える心配はなさそうだ。


「さて、策を考えないとね~」


「奇襲か?」


「正面からぶつかったら、数が違いすぎるじゃん。相手はこちらの倍、1人で2人殺してやっと並ぶんだから」


 唸りながら地図をにらみつける。地の利を活かした川の攻撃は、さすがに2度も通用しないはずだ。塹壕はほとんどが水没してしまった。つまり身を隠す場所もない戦場で、互いに身を曝け出したまま撃ちあいになる。間違いなく数で負けるし、大量に仲間を失う未来が見えた。


 顔を上げれば傭兵達は武器の手入れをしながら、こちらの作戦会議の様子を窺っている。当然だろう。指揮官オレが無能なら、次の戦いで全滅もあり得た。命が懸かった場面なのだ。


「戦力が足りないよなぁ」


 ぼやくように声を漏らし、ぐしゃぐしゃと髪をかき乱した。結んでいた紐が解けて落ち、拾おうとして屈んだオレは動きを止める。見つめる先は影、自分自身の影からこちらを覗き見るブラウだった。ヒジリは足元で尻尾を振っているし、コウコは首に絡みついたままだ。


 聖獣って、戦で使ってもいいんだよね? だってコウコと戦うとき、ヒジリ達は協力してくれたし……回り込もうとした囮連中をやっつけてもらったもんな。


「なあ、ヒジリ。頼んだら聞いてくれる?」


『内容にもよるが、我は主殿の使役獣ぞ』


『あたくしも協力するわよ』


『僕は…』


「うん……ブラウは聞かなくてもいい」


 断るチャンスは与えない。きっぱり言い切って顔を上げた。拾った紐できちんと髪を結い直し、少し高い位置で纏めた。ポニーテールより少し下、頭の中央くらいの高さだ。


「レイル、戦力がまだあった」


 地図の上にいる聖獣を指差す。面白そうな顔で頷くが、彼は意見を出してくれるつもりはなさそう。お手並み拝見とばかりに腕を組んで話を聞く体勢に入った。


「作戦会議するぞ! 手が空いてる人は来て」


 どうせなら全員まとめて説明したら手間が省ける。敵が徐々に近づいている状況で、何度も作戦を練り直す時間はないのだ。説明する側から意見してもらって変更しないと間に合わないと考えたオレに、ジャックやジークムンドのような二つ名を持つ人は驚きを表情に出す。

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